記憶を呼び覚ます舞踏 霧降高原で雪雄子「月光月下」
(雪雄子の舞踏公演「月光月下」第1部=20日、日光霧降高原 幾何楽堂)
神秘的でシャーマニックな舞いー。プロフィールのそんな紹介の通りの舞踏公演が20日、日光霧降高原の幾何楽堂であった。津軽の舞踏家・雪雄子さんの「月光月下」。周囲が深い緑におおわれた幾何楽堂の前庭斜面で始まり、広いログハウスの屋内舞踏に移った。
幾何楽堂ではつい先日、飼っているニワトリ3羽のうちの1羽が野良犬の犠牲になるという事件が起きた(「砂時計」では3羽のうち2羽が野良猫と野生動物の犠牲になっているが~)。このため、第1部、第2部を終えた雪さんが、ニワトリの「追悼公演」も加えた。
「追悼公演」は、幾何楽堂の前庭斜面にかがり火をたいた草地の「舞台」で。暗闇の中で光にゆらめく雪さんが厳粛に舞い、ログハウスへ。赤い帽子をかぶった雪さんがニワトリよろしく、観客たちと無言の対話をしながら、公演を終えた。
演奏は邦楽家(音象家)の木村俊介さん。第1部では公演のために急きょ、幾何楽堂が「清水演奏舞台」(谷側に突き出した屋台)を森側の前庭に制作、その舞台で笛を中心に森の中の雪さんの舞踏に寄り添った。
屋内では笛、津軽三味線に加え、太鼓や大小さまざまな鉦なども用意。ときに幻想的に、ときに静寂に、ときに激烈な演奏を展開。いわゆる「現代音楽」を雪さんの舞踏に重ねた(木村さんによると、2人はイメージの打ち合わせだけで、リハーサルはなしの本番だったという)。
観客たちは幼女から老婆まで演じる雪さんのなんともいえない表現にある種の感嘆を覚えたようだった。「砂時計」もその一人だが、もっと感じたのは、雪さんの舞踏が人の「記憶」を思い出させるようなものであったことだ。
緊張のうちに厳粛に、時に激しく舞い、祈り、ぬかずき、崩れ落ち、さまよう、その移り変わる舞踏の情景(印象としては、卑弥呼であったり、楊貴妃であったり、恐山の老婆であったり)を注視していくと、心がいつか、過去へ過去へと遡っていくようだった。
(「月光月下」終了後のニワトリ追悼舞踏)
それが分かったのは、公演が終わり、雪さんも交えた「懇親会」で(と称する打ち上げの飲み会)。飲みあううちに過去にこの先の進むべき道を摸索していた若者時代を語ろうとする自分がいたからだ。それは語り合っていた友人たちも同じようで、過去の記憶をお互いに、たどろうとしていた。
舞踏の持つ力みたいなものは、頭ではわかっていても、なかなか理解できそうにない(大衆演劇が好きな「砂時計」もそうなのだが~)。この日の雪さんの舞踏は、記憶の、つまり、過去の時間へ、無意識のうちに飛ぼうとさせる力が宿っていた。そうしたエネルギーは、やはり「暗黒舞踏」の血筋なのかもしれない。
雪さん自身は公演が終わると、舞踏での能面のような表情が一変。大きな飲み皿で「一気飲み」に付き合い、観客に気軽に声をかけるなど、気さくな一面を見せた。舞いが厳粛だったのに比べ、その声の可憐なことにも驚いた「砂時計」でした。
雄子プロフィール(宇都宮「悠日」ブログから)
舞踏家。東京都目黒生まれ。1970, 暗黒舞踏の創始者土方巽に出合う。1972, 大駱駝艦創成に紅一点として参加。1975, 北方舞踏派(山田一平主宰)と共に山形県出羽三山麓へ移住。1984, 土方巽演出、振付の「鷹ざしき」で女鷹を舞う。1988~1992, 独舞踏「蝦夷面」(山田一平演出)をサンフランシスコなどで上演 , 北国の生命力を現出する舞踏家として高い評価を受ける。1993, 秋、津軽へ移住。偶然のようにして出会う縄文をはじめ、津軽に息づく原初そのものの命との出会いを創作の原点としている。1995, 風の誕生」(青森公立大学)、縄文映画「一万年王国」、「縄文頌」(京都市・国際日本文化研究センター)、1998, 「カリヨンの庭」(仙台市・宮城県美術館)2005ウィーン、パリ、ワルシャワで公演。2007, サンクトペテルブルのDANCEグループDELEBO と京都大学西部講堂にて共演 , LIB サンクトペテルブルグ・モスクワ公演プロジェクト「舞踏の源流から身体の未来へ」にて舞踏ソロ、(共演 津軽三味線・新田昌弘) 2008, 作家・田口ランディ、画家・香川大介とのコラボレーション(宇都宮 ギャラリー悠日)
ロシア・サンクトペテルブルグバレエホール では神秘的でシャーマニックな舞い姿に1700人の観客が魅了された。少女から老婆まで、0歳から100歳までの身体感覚の中で舞う。
(少数の訪問者のための注 「砂時計」は18日から3日間、岩手県北上市で開催された現代詩人会東日本ゼミナールなどに参加。ブログは3日間、開店休業?でした)
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