無料ブログはココログ

ブログランキング

  • ブログランキング
    人気ブログランキングへ

« 雪雄子舞踏公演「月下月光」 霧降高原・幾何楽堂で20日 | トップページ | 花のように鳥のように  阿久悠小論ーその(11)- »

2010年9月16日 (木)

花のように鳥のように 阿久悠小論ーその(10)-

Dscf2908 (「縁あってひばりと対面すると、一気に40年近くも逆戻りして、少年になってしまうのである」。ネコに語らせる阿久悠の『どうせこの世は猫またぎ』・1988年10月・毎日新聞社) 

  「トラウマといってもいい」。阿久悠にとって美空ひばりに対する意識は,かなり複雑だ。

  『生きっぱなしの記』(阿久悠)によると、同い年であることによる、尊敬、羨望、畏怖、劣等意識、見栄、意地、野心、誇りなどが何十年もつきまとい、とうとう作詞家に立つ時のテーマになってしまった、というのだ。

 それほど、阿久悠にとって、ひばりは特別な存在だった。その複雑な胸のうちをかなりわかりやすく伝えている文章に『愛すべき名歌たちー私的戦後歌謡曲史』(岩波新書 1999年)の「悲しき口笛」(美空ひばり)がある。

 ひばりに対し、「かなわないや」という意識を宿命的に持ってしまった。その後でこう語る

 「いくらか自分を正当化するつもりもあるかもしれないが、ぼくは、美空ひばりは、天才少女歌手といった生やさしい存在ではない、と思っている。ファンタジーである。敗戦の焦土が誕生させた突然変異の生命体で、しかも、人を救う使命を帯びていた、ということである」。Dscf2916 (書・阿久悠、絵・長尾みのるの『どうせこの世は猫またぎ』の表紙)

 阿久悠は「悲しき口笛」について、こう語る。

 「12歳の少女がうたう歌が、丘のホテル、で始まるのも驚くが、彼女の唇によって、それが語られると、何の不思議もなく、大人とも子供とも区分けすることが、愚かしいほど、自然に聞えていたことも事実である。この歌でぼくは、同年を誇り、そして、怯んだ」

 ひばりに対する阿久悠の「尊敬、羨望、誇り」や、それの反動でもあろう、「意地、見栄、野心、劣等意識」までは、なんとなくわかる気がする。

だが、「畏怖」「怯み」というのは、少し異質だ。そのものに遭ったとき、あとずさりしてしまう状態だ。してみると、蛇ににらまれた蛙とでもいうのか?。

 ああ、そうか。そんな心理を反映したような場面を思い出した。『どうせこの世は猫またぎ』の「玄関は儀式の場所」にある。

 (ネコの独白で)「この日の仕事は、何でもダンナが詞を書き、吉田正という人が曲を付け、美空ひばりという人が歌うレコーディングであった。他の巨匠や大物に対しては、ダンナはめったにたじろぐことはないが、どうやら、この2人は特別であるらしい」

 (ネコの独白で)「少年であったダンナにとってみれば、あの美空ひばりであり、あの吉田正で、どこか、神格化しておった」

 結局、仕事から帰り、

 「どうでした?」。

 カミさんが軽くいうと、

 「感無量」

 と答えて寝てしまった。

 つまり、阿久悠は、ひばりに、少年時代の強烈な印象に「たじろぎ」、さらに「神格化」」してしまう心理状態にまでなっていたということか。

  「感無量」。その思いはどんな気持だったのだろう。だが、その彼自身が作詞の世界で今や「神格化」されるほどの場所にいる。

 現役の阿久悠は、時代のいわゆる寵児として、そのオーラを発光させていた。だからそのように思ってしまう不思議さが残る。彼にしてなぜ、そこまで。

 美空ひばりと同い年であるから。さまざまな理由を挙げて、そう繰り返す阿久悠の説明を何度も聞いても、どうも全部はわからない(阿久悠にもわからない複雑な心理なのだったのではないか?でも、それが結果的に阿久悠を大成させたのだから、人生は面白い)

 その阿久悠が美空ひばりのことで後悔している文章に出会った。自身に正直な彼の誠実な人柄がこれでわかる。これも阿久悠のひばりに対する「トラウマ」が遠因なのか?

 「ぼくの三十数年の作詞家生活に於いて、後悔することがあるとするなら、美空ひばりのために、歴史的な詞を提供できなかったことである。この同年の大歌手が五十二歳の若さで(そうか、美空ひばりはそんなに若く亡くなったのか~)急逝したとき、ぼくがぼくを責めたのは、『馬鹿だな、阿久悠、逃げてばかりいて』という言葉であった。その思いは、年々歳々深まっているのである」

 (「花のように鳥のように 阿久悠小論ーその(11)ー」に続く)

« 雪雄子舞踏公演「月下月光」 霧降高原・幾何楽堂で20日 | トップページ | 花のように鳥のように  阿久悠小論ーその(11)- »

詩論」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1378275/36756981

この記事へのトラックバック一覧です: 花のように鳥のように 阿久悠小論ーその(10)-:

« 雪雄子舞踏公演「月下月光」 霧降高原・幾何楽堂で20日 | トップページ | 花のように鳥のように  阿久悠小論ーその(11)- »

2017年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30