南蛮渡来の「はるばる屋」 茨木のり子詩集からー(8)-
「はるばる」であったり、「なつかし」であったり。さらに「去年」や「おいてけぼり」。それらをキイワードにつづった詩「「店の名」。いずれも時とか時代を背景にした名前だ。世間と少しズレたような、あるいは流行には無縁といったこうした名前の店に寄ってみたくなるから、不思議だ。この詩にそんな親しさを感じる。
寄ってみたくなるのは、たぶん、その店名と自分の過去とが、クロスする、そんな思いがどこかにあるのかもしれない。店の空気が実際、そうだったりすると、すごくうれしくなったり、はればれしたり。それも一度聞いたら忘れない名前。古くからの地名を大事に思っていた茨木のり子は、詩で挙げた店名が気に入っていたのだろう。
店名といえば、骨董屋さんの「時代屋」、居酒屋さんの「とっくり」などが典型だ。日光霧降高原でいえば、工房兼イベントハウス?「幾何楽堂」もユニークで親しみやすい名前だ.。日光が拠点の移動珈琲店「エルネスト」の店名の由来も面白い(答えられた人は砂時計宅の紅茶一杯を進呈 ヒントは革命 笑い~)。
時代屋といえば、以前暮らしていた北海道・釧路の喫茶店で、ときにミニシアターでもあった「時代屋」にはよく顔を出したものだ~(夏目雅子が印象的な映画「時代屋の女房」というのも)。
だいたいが、店名からその店の雰囲気がおよそつかめる(まったく違う印象の店もたまにはあるだろうが)。この詩「店の名」を読んでいたら、やはり釧路の「ジッピー」という美味しいホルモン屋さんを思い出した。その店の名の由来のおかしいこと~。
ホルモン屋なのにどうしてジッピーという洋風の店名なのか、疑問に思っていた。ある日、<どうしてジッピーなのか>。こう聞くと、ご主人が「うちは実費(じっぴ)といっていいくらい安いので、いつのまにか実費=ジッピーに」。あるいは「うちの払いはつけではなく、実費でだったので、そのままジッピーに」(どちらだったかなぁ~)。
アップした詩「店の名」は茨木のり子の有名な詩集『倚りかからず』(筑摩書房 1999年10月)に収められた一篇。
詩 店の名
茨木のり子
<はるばる屋>という店がある
インドやネパール チベットやタイの
雑貨や衣類を売っている
むかしは南蛮渡来と呼ばれた品々が
犇めきながら ひそひそと語りあっている
-はるばる来つるものかな
<なつかし屋>という店がある
友人のそのまた友人のやっている古書店
ほかにもなんだかなつかしいものを
いろいろ並べてあるらしい
絶版になった文庫本などありがたいという
詩集は困ると言われるのは一寸困る
<去年屋>という店がある
去年はやって今年はややすたれの衣類を
安く売っているらしい
まったく去年も今年もあるものか
関西らしい商いである
何語なのかさっぱりわからぬ看板のなか
母国語を探し探しして命名した
屋号のよろしき
それかあらぬか店はそれぞれに健在である
ある町の
<おいてけぼり>という喫茶店も
気に入っていたのだが
店じしんおいてけぼりをくわなかったか
どうか
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