イキテルヤツハミナタマゴ 茨木のり子詩集からー(1)-
(詩 「詩人の卵」も収められている現代詩文庫『茨木のり子詩集』・思潮社・初版は1969年3月)
<そうそう、そういうことだよね>。思わず、その詩に向かって言いたくなるのが、茨木のり子の詩「詩人の卵」だ。なかでも、結びの「誰も知っちゃいないのだ/どれがほんとに孵るのか/水の流れも知らないのだ」には同感する。
もともとは現代詩文庫『茨木のり子詩集』にある未刊詩篇の「詩論に代えて 詩三つ」のうちの一つだ(残りの二つは「言いたくない言葉」と「日本語」)。
でも、最後の最後で、「イキテルヤツハミナタマゴ」はすごいというか、発想の奥が深い。孵るためにはりきれと、励ましながら、なかなか大人にはなれないぞ(生きているうちは絶対の完成形はないのだぞ)、そう釘をさす。
この詩を読んでいたら、米国人詩人 アーサー・ビナードさんが激賞し、私も好きなプロレタリア詩人 小熊秀雄(北海道出身 全国の詩人がめざす「小熊秀雄賞」で知られる)の詩「気取り屋の詩人に」を思い出した。
乱作詩人だと罵る寡作の詩人に対し、小熊は「僕は食事中でも詩を書く(略)僕たちは働く詩人だ」とやりかえす。最後には、皮肉たっぷりの詩句を用意している。「砂時計」はその結びが、ときたま頭をよぎることがある。
「君はー男のくせに/女形のように容子ぶって/原稿紙にむかう/月経(つきもの)でも/あったように/二十八日目に/一篇おつくりになる」
詩 詩人の卵
茨木のり子
魚が あんなにびっしり
喘ぎ喘ぎ卵を抱えているのは
孵る子が乏しいため
孵っても生き抜く確率がすくないため
下手な鉄砲も数打ちゃ当る
詩人の卵が昔より
びっしり増えてきたのもさ
現実に食われる詩人が多いため
はりきれ 卵!
誰も知っちゃいないのだ
どれがほんとに孵るのか
水の流れも知らないのだ
イキテルヤツハミナタマゴ
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コメント
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ご無沙汰です
どうでも良い話なんですが
明治の館のギャラリー「蓄音機」で漆の砂時計展をやっているそうですよ
如何ですか?
どうでも良い話ですみません。
投稿: oyazi | 2010年10月14日 (木) 23時40分
oyaziさま
「砂時計」展はきょうの下野新聞で知りました。
あす15日でも行こうと思っていたところです。
「大事な話」ですよ。ありがとうございました。
投稿: 砂時計 | 2010年10月15日 (金) 00時01分
お早うございます
下野新聞も購読していたのですか?
知りませんでした(W)
覚えておきます。
投稿: oyazi | 2010年10月15日 (金) 05時59分
oyaziさま
世の中を知るには中央紙(できれば朝日新聞)と地元紙は
必需品。中央紙はできれば複数を(生活費に余裕があれば
ですが~そんな余裕のある人がどれくらい、いるのかな)。
投稿: 砂時計 | 2010年10月15日 (金) 18時14分