草に埋もれて寝たのです 詩「生活の柄」・山之口貘・高田渡
詩 生活の柄
山之口貘
歩き疲れては、
夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである
草に埋もれて寝たのである
ところ構わず寝たのである
寝たのであるが
ねむれたのでもあったのか!
このごろはねむれない
陸を敷いてもねむれない
夜空の下ではねむれない
揺り起されてはねむれない
この生活の柄が夏向きなのか!
寝たかとおもふと冷気にからかはれて
秋は、浮浪人のままではねれむれない
『山之口貘詩集』(現代詩文庫)の年譜によると、この詩「生活の柄」を書いていた当時の貘さんの生活は以下のようだ。
大正13(1924)年 21歳
詩稿を抱いて二度目の上京。当時の詩に「ものもらいの話」「生活の柄」などがある。再び友人の下宿を転々とする生活を始める。
昭和2(1927)年 24歳
詩人赤松月船やサトーハチロー等を知る。しかし、定職を得られず、昼間は喫茶店に入りびたり、夜は土管にもぐって寝たり、公園や駅のベンチ、キャバレーのボイラー室等折り折りの仮住まいの生活で、初上京の日から16年間、畳の上に寝たことはなかった。こうした放浪生活の中で詩を書き続け、この頃より山之口貘の名を用いる。
20歳前後の若者のときはだれでも、「夜空と陸の隙間」で寝ることはできる。私でさえ、そのころ、東京の友人を訪ねたとき、不在だったので、公園のベンチで寝たことがある。沖縄返還協定粉砕闘争デモに出るため、新宿駅構内のコンクリートの床で新聞紙にくるまって、一夜を明かしたこともある(新宿のJAZZ喫茶店で夜を明かすというのは何度も)。
ところが、貘さんはそれが日常だったよう。なにしろ、19歳で沖縄から上京して以来、16年間も「畳の上で」寝たことがないというのだから。その後も貧乏はついてまわった。「貘さんはだれよりも貧乏したのに、心は王侯のごとしという、ふしぎな豊かさをますます自分のものにしていった人でした」(茨木のり子の詩人論「精神の貴族」)
その詩を生きながら伝説の人になっていたフォーク歌手・高田渡が歌にした。「生活の柄」だが、さらに貘さんの詩「鮪に鰯」も、そのまま歌にしている。高田渡は「タカダワタル的」という映画でも知られていようが、私にとってはフォークの名曲「自衛隊に入ろう」や「自転車に乗って」などのほうがなじみがある。
とくに「自衛隊に入ろう」はパロディというか、ブラックユーモアの典型で、詩でいうと、諷刺詩ともいえるできだ。私が寓意や寓話などを好むのは、若いときに高田渡やザ・フォーク・クルセダースの「帰って来たヨッパライ」などに、魅せられたからかもしれない(赤塚不二夫の「天才バカボン」も大好きナノダ~)。
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コメント
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自転車に乗って、、、
自転車に乗って、、、
どこか遠くにもっと遠くにもっともっと遠くに行きたい。
どこか火山灰の降らないところまで、、、
投稿: エル | 2010年11月 9日 (火) 22時06分
エルさま
「ちょいとそこまで~街に」というのが原曲ですよ!。
それでは火山の噴火から逃れられないという意味ですか?。
投稿: 砂時計 | 2010年11月10日 (水) 01時07分
コジツケめいていますが「歩き疲れては、
夜空と陸との隙間にもぐり込んで寝たのである
草に埋もれて寝たのである
ところ構わず寝たのである」・・・・・は山遊びの時と同じですね(笑)。
「寝たかとおもふと冷気にからかはれて
秋は、浮浪人のままではねれむれない」というわけで、北陸の旅に出かけようと思っとりますが、たぶん、屋根の下で眠ります。
13日、出発予定。
目指すは永平寺(笑)。
3,4日で帰晃予定。
投稿: 日光を漂ふ | 2010年11月10日 (水) 19時01分
漂ふさま
最近、知っているだけでも、西日本オートバイの旅、
伊豆半島氷室の旅を。今度は北陸ですか。旅人
ですね(いや、日光から漂ふ、歴史の漂流人でしたか)
良い旅を(お土産は「北陸道漂ふ報告」を~)。
投稿: 砂時計 | 2010年11月10日 (水) 20時50分
返歌 寝る…に因んで短歌一首です、
どんどんんとたまる映画の数あまた寝る間も惜しみ見尽くすべきか
投稿: 春日 | 2017年7月26日 (水) 23時40分