その詩人は7500枚の中に 沖縄出身の山之口貘について
(朝日新聞2日付朝刊13版第2社会面の石田博士記者の「その詩人は7500枚の中に」)
詩 博学と無学
山之口貘
あれを読んだか
これを読んだかと
さんざん無学にされてしまった揚句
ぼくはその人にいった
しかしヴァレリーさんでも
ぼくのなんぞ
読んでない筈だ
借金に次ぐ借金を重ね、それこそ貧乏暮らし続きだったが、「精神の貴族」と呼ばれていたという沖縄出身の詩人 山之口貘(やまのくち・ばく)のことが2日付の朝日新聞のコラム「五線譜」で紹介されていた。
見出しは「その詩人は7500枚の中に」。<あれ! もしかしたら、山之口貘のことかも?>。たまたまだが、茨木のり子の『うたの心に生きた人々』(ちくま文庫)を読んでいるところ。そこに4人の詩人が紹介されているのだが、その一人。そこでこう書かれていたからだ。
「貘さんは推敲の鬼としても、鳴りひびいていました(略)短い詩一篇つくりだすためにも、二百まい、三百まいの原稿用紙を書きつぶしてしまうことはざらでした」
高名な沖縄出身の詩人であることは以前から知っており、詩集も手元に置いていた。しかし、どうしたわけか、手にとる機会がなかった。本棚から詩集をひもとくと、なんと10年前に買ったもの。それを初めて開こうとしていた。
石田博士記者の手による記事を読んだのは、こんなとき(しかし、石田博士記者の専門は南米のはずだが、この手の人情話風記事でも、いつもいい記事を書いている)。
記事によると、原稿用紙の束はビニールひもにくくられ、東京都内の民家の押し入れに眠っていた。初校から書き損じまで、詩ができあがるまでのすべてを保存していた。完成まで200枚を超えた作品もあったという。記事の結びはこうだ。
「原稿用紙は、3日から故郷沖縄の県立図書館で展示される。こんな大量の手書き原稿が残されることは、どんな作家のものでも、もはやないだろう」
茨木のり子の『うたの心に生きた人々』や「研究 精神の貴族」(『山之口貘詩集』)を読んだり、この日の記事を読んだり。これもひとつの大きな縁。少し読んだだけでも、好きな詩がたくさんあった。いずれ、山之口貘の詩も順次、このブログで紹介してみたい。
最初はまず、以下の詩を
詩 羊
山之口貘
食うや食わずの
荒れた生活をしているうちに
人相までも変って来たのだそうで
ぼくの顔は原子爆弾か
水素爆弾みたいになったのかとおもうのだが
それというのも地球の上なので
めしを食わずにはいられないからなのだ
ところが地球の上には
死んでも食いたくないものがあって
それがぼくの顔みたいな
原子爆弾だの水素爆弾なのだ
こんな現代をよそに
羊は年が明けても相変わらずで
角はあってもそれは渦巻にして
紙など食って
やさしい眼をして
地球の上を生きているのだ
« 南蛮渡来の「はるばる屋」 茨木のり子詩集からー(8)- | トップページ | 霧降高原の森林を駈ける~! MTBコース完成でライダー試走 »
「歌・唄・詩」カテゴリの記事
- たまには「精神の貴族」の詩を味わいたいー 「貧乏もの借金もの質屋もの」詩人の山之口藐さん(2024.08.01)
- 「アングラの女王」・浅川マキを思い出してー リズム感いっぱいの「オールドレインコート」(2024.07.31)
- やはり「ビル・エバンス」を選んでいます 季節ごとの我が家の「CD50枚」入れ替えで(2024.06.21)
- 深夜にぴったり城達也「ジェットストリーム」 CD10枚組の「碧空」や「さらばローマ」が(2024.06.05)
- コルトレーンの柔らかなブルースもいいね 1958年演奏「セッティン・ザ・ペース」の「おもかげ」(2024.06.01)
コメント
« 南蛮渡来の「はるばる屋」 茨木のり子詩集からー(8)- | トップページ | 霧降高原の森林を駈ける~! MTBコース完成でライダー試走 »
ご存知でしたか?
http://www.youtube.com/watch?v=YjPaERepRIs&feature=related
投稿: 日光を漂ふ | 2010年11月 5日 (金) 05時36分
漂ふさま
もちろん。古くからのフォークソングファンですから。なかでも
やはり山之口の詩に高田渡が曲をつけた「生活の柄」は
味がありますね。漂ふさまが紹介した画像の「鮪と鰯」は
山之口の代表的な詩で、詩集の表題にも。いずれ、ブログ
で紹介しようと思っています。やはり同世代ですね。
投稿: 砂時計 | 2010年11月 5日 (金) 15時24分