風と日射しと私 宇都宮の詩人・柴田トヨ詩集「くじけないで」
(98歳の処女詩集 柴田トヨさんの「くじけないで」飛鳥新社・2010年12月第17刷)
詩 風と日射しと私
柴田トヨ
風が
硝子戸を叩くので
中に入れてあげた
そしたら
日射しまで入って来て
三人で おしゃべり
おばあちゃん
独りで寂しくないかい?
風と日射しが聞くから
人間 所詮は独りよ
私は答えた
がんばらずに
気楽にいくのがいいね
みんなで笑い合った
昼下がり
一人息子の勧めで92歳から詩をつくりはじめ、98歳で出した処女詩集が売れに売れている柴田トヨさんの詩集『くじけないで』(産経新聞の「朝の詩」欄の投稿作品などをまとめたという)。だいぶ前に新聞記事で読み、<いつか読まないと>。そう思っていたが、ようやく買い求めることができた。
きっかけは25日にあった同人誌「序説」の忘年会。群馬県の同人が話した。「100歳近いおばあちゃんの詩集を買い、読んだところ、難しい言葉を使わず、自然な流れのいい詩だった。その詩集をおふくろにあげた。確か、栃木県に暮らす人」「えっ、栃木県内の人だったの」。
実際、詩集を読むと、柴田トヨさんは宇都宮で一人暮らし(毎週土曜日に息子が様子を見に訪れているようだが)。いや~、灯台下暗し。話題の詩人は県内だったのに。それも気づかないとは。大いに恥入りながら、詩を読んでいくと、確かにたくさんの人たちに読まれるだろうことがわかる。
一世紀を生きる女性の自然な知恵が詩に紡がれている。若くして亡くなった悲劇の童謡詩人・金子みすゞが生き続け、高齢者になったら、こんな詩を書いていかたもしれない。私は詩「風と日射しと私」が気に入ったが、詩「貯金」もいい。
詩 貯金
柴田トヨ
私ね 人から
やさしさを貰ったら
心に貯金しておくの
さびしくなった時は
それを引きだして
元気になる
あなたも 今から
積んでおきなさい
年金より
いいわよ
私にも91歳になった母が故郷・群馬県の実家で暮らす。足元がいまいちだが、記憶力は抜群。炊事、洗濯、掃除など、一人でこなし、何事もゆっくりと暮らしている。正月に帰省する際に、この詩集を買い求めて、母にあげよう。そういえば、今月に入ってそう思っていたのを思い出しだ。
柴田さんは1911(明治44)年6月生まれ。あと半年で100歳になる。その高齢で、こんなみずみずしい詩をうたうなんて。というのが、ふつうだが、実際は高齢でもしゃんとしている人はそうした精神を持っているのだと思う。
だから、別の詩「先生へ」というのを、読むと、<そうだろう そうだよね>。そのように柴田さんに(つまり、私の母に)思わず、声をかけたくなってしまう。その詩「先生に」は、私をおばあちゃんと呼ばないでと言い、「今日は何曜日?」といったバカな質問はしないでほしいという。
そうして結ぶ詩句がいい。胸のすくような言葉、発想だ。明治、大正、昭和、平成と、健やかな心で生きてきたことが、わかりそうな詩だ(もっと、早く読まねばならなかったと、反省しきりです~)。
詩 先生に(後半の7行)
「柴田さん
西条八十の詩は
好きですか?
小泉内閣を
どう思います?」
こんな質問なら
うれしいわ
« 「砂時計主義セット」!が届いた 驚きの5点が岩手の美術家から | トップページ | 99歳のシンデレラ 詩人・柴田トヨさん、朝日新聞が「回顧」 »
「歌・唄・詩」カテゴリの記事
- 戦中戦後に戻る 詩 マスク(2020.07.13)
- 子規想いつぶあん食す梅雨の空 森まゆみ「子規の音」を読んで(2020.07.11)
- 不要不急胸を当てれば我が事か サイクリングで吟ず(2020.07.09)
- 泪降る九州にまた豪雨 サイクリングで読む9句(2020.07.07)
- 深々と雨の緑の文庫かな 梅雨空に一句(2020.07.06)
« 「砂時計主義セット」!が届いた 驚きの5点が岩手の美術家から | トップページ | 99歳のシンデレラ 詩人・柴田トヨさん、朝日新聞が「回顧」 »
コメント