「戦艦大和ノ最期」 黒川純・詩「その声は伝わっているか」
(講談社文芸文庫の吉田満『戦艦大和ノ最期』・1997年4月第四版)
詩 その声は伝わっているか
黒川純
(進歩ノナイ者は決シテ勝タナイ
負ケテ目ザメルコトガ最上の道ダ)
殴り合いの乱闘の末だった
必敗の海路の激論を制し
低く囁くその声に反論はもうない
散る命の意味を問うなら
ここで徹底的に敗れる
それが最もいい方法だ
(敗レテ目覚メル
ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ)
本当の進歩ってやつを忘れ
必要な改革を怠っているから
今こそ目覚めさせるのだ
育ててくれた故郷のため
俺たちがその先導役になる
それ以上 何を望むのか
(日本ノ新生ニサキガケテ散ル
マサニ本望ジャナイカ)
若い命を南海に沈めたのは
次の世のため 死ぬことで生きると
その考えに辿りつき 殉じたからだ
その死はムダではなかったか
思いは65年後も視えているか
海の底の声は伝わっているか
注 ( )内は「戦艦大和ノ最期」の哨戒長・白淵大尉の言葉
(黒川純詩集『怒りの苦さまた青さ 「反戦詩」とその世界』(2004年9月)の「私たちの意志は届いたか」改稿)
12月8日は太平洋戦争開戦日(1941年)。朝日新聞が夕刊で連載中の「65年目の『遺言』」②(12月7日3版)は「大和と原爆 2度見た地獄」と題して、元海軍少年兵、八杉康夫さん(83)の「遺言」を伝えている。
3000人以上が海に沈んだという戦艦大和。護衛機がつかない「特攻」の船内はどんなようだったか。生き残った海軍少尉 故・吉田満さんが名著『戦艦大和ノ最期』を残している。
「太平洋戦争最高の戦記文学」。という作家の故・山田風太郎の評があるという。「という」というのは、最近、といっても、2007年8月刊だが、岩波新書『戦艦大和 生還者たちの証言から』(栗原俊雄)からの引用のため。
無理に引用しなくともいいのだが、「大和」に関してはさまざまな書籍が出されているからだ。その中でも第一級ということを言いたかった。私にしても、吉田満の「戦艦大和ノ最期」には、感動を覚えた。というか、正座して読まねばならないような緊張感を覚えものだった。
とくに「負けることがわかっている特攻に何のために向かうのか」をめぐる士官たちの議論には、さまざまな感慨がよぎった。論争が乱闘になるが、その際、白淵大尉が低くささやくように話すくだりは必読の価値ありだ。
それに触発され、白淵大尉の言葉を加えて、詩にしたのが、「その声は伝わっているか」。もともとは岩手県北上市を中心にした詩誌「ベン・ベ・ロコ」145号(2003年8月)に「私たちの意志は届いたか」として、発表したものだ。きょうは朝日新聞の記事を受け、初稿を改稿し、アップすることにした。
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