詩「ひとは一つの詩とともに・・・」が溶け合った時間 詩人・河津聖恵の世界(23)
(「震災と原発」をテーマにした詩の講演会・朗読会で朗読中の河津さん=1日、JR日光駅ホワイトルーム)
詩の講演会・朗読会で河津さんが朗読した詩は7篇。「印象に残った詩は?」と参加者に問いかけたアンケートの回答では、「影」「鏡池」があったが、さらに「ひとは一つの詩とともに生まれてくる」が複数あった。
私の友人で茨城県の詩人、磯山オサム君も挙げていたのが、この「ひとは一つの詩とともに・・・」だった。以前にもこの「河津聖恵の世界」でもとりあげているが、そのときはまだBGMは考えていなかった。なので、あえてもう一度、とりあげたい。
というのも、当日のBGMはジョージ・ウィンストンの「DECEMBER」。彼の曲はいずれも透き通った音色が特色だ。音ははっきりしているのだが、その響きに嫌みがない。ジャズピアノのビル・エヴァンスとはまた違った独特な魅力がある。
その曲「DECEMBER」と詩「ひとは一つの詩ととも・・・」が、100年前、大正元年に建てられたJR日光駅ホワイトルームの空間に溶け合った時間だったと思う(と~、選曲したわたしは自画自賛しているのだった~)。
その曲と詩が一体になると、どんな雰囲気になるのか?。当日の会場の状況を再現してみたい。詩については「絵のように美しい」というアンケート回答があったが、この詩もそのひとつだ。まずは曲を聴きながら、この詩をじっくり味わってほしい。
ひとは一つの詩とともに生まれてくる
河津聖恵
ひとは一つの詩とともに生まれてくる
燃えるたった一つの詩に照らされながら
怒った真っ赤な額で産まれてくる
(でも星座のように読むことができるのはそのときだけだ)
永遠に読むことのできない詩のために
私たちはいやがおうでも生かされていく
権能者ではなく 孤独な書き手でもなく
むさぼりのためでなく 口実ではなく
自身の牢獄を磨いてみせることもなく
ただ詩とともにあるということで生きる・生かされる(私たち詩の囚人か、ともがらか)
あかあかと詩の尽きるとき一閃で消える(祝祭か、とむらいか)
私たちが去れば宇宙のグラスに揺れ動くワインのようにゆったりと燃え拡がるはずだ
世界は初めて美しいよこがおを虹色に染めるだろう
詩は千年をかけて夜の鳥たちのように
はるかな空無へ他者へ燃えわたされていく
(私たちがいなくなったならば誰かがまた歓喜と苦悩の油を絞る)
よりよく燃えるために私たちは生きる・書く
風は葉を揺らし花は香りを放ちながら・書く
ふいに敗北したように空気はかたわらでくぼみ句点が打たれ
いつしかけもののように他者のために祈りつづけ世界は輝く白紙となり
ただ証すための一篇にいとおしく焼き尽くされるため
この今を抱くように生きている
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