全文初めてひらがなの作品に 詩・それははじまっていたのだ
(定置網の漁網をみんなで引きだす災害支援「チーム日光」などのボランティア=今夏、南三陸町歌津)
詩 それははじまっていたのだ
黒川純
それははじまっていた
ゆっくりとしたはるかぜとともに
のびのびとせのびするわかばのように
もともとあるほんとうのために
だれかのだれかのためにいきてゆく
じぶんのじぶんのためだと
めびうすのわで とほうにくれるが
さんりくにいきたひとりびとりが
わるいゆめのように いっしゅんのうちに
ざぶざぶとうねるうみにのみこまれた
だれかのだれかのためなら
はっきりしたちょくせんがみえる
さむざむとしたおいかぜはもうけっこう
ぎすぎすしたあいさつもいらない
ぎゃくだちしたつくえともおさらばさ
だれもそうとはおもわないうちに
くちからくちにしないうちに
あたたかいくうきをおよごうとしている
やわらかなみどりのかぜにむかっている
じもんじとうをくりかえしながら
たいきのながれそのものになろうと
いきてゆくほんとうにみをさらす
それがはじまっていた
おおくのだれかで
ねがっても てがとどかなかった
まだみぬひだまりのえんがわへ
きづいていたわけではないが
そっとふわりとそのほうへ
でも うすうすかんじてはいる
なんだかとてもきもちがはれる
ほおがあかるくはればれとして
なぜかけなげにうつくしい
しぜんのしゃぼんでみをきよめ
うまれかわったかのように
それはまるでてじなのようだ
それがはじまっていたからだ
あのひとと このひとと
あいつと あのこと
うみとともにくらしつづけた
あっちのひと こっちのひとと
あしたのゆめをむざんにひきさかれ
いっぱいのむねんさにただようかれらと
かなしみとあしたのパンをわかちあい
まっすぐなまなざしをこうかんすれば
たくさんのだれかのそのいっぽから
たしかなきぶんと たしかなきもちが
がれきだけのまちのかぜのなかでも
それははじまっていたのだ
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