左翼論争史がわかる新書です 「新しい左翼入門」
「新しい左翼入門」(松尾匡、講談社現代新書)。この数日間は主にこの新書を読んでいました。「新しい左翼」であって、「新左翼入門」ではありません(笑い)。最も、本書は左翼のことも政治のこともあまり取り上げられていない。「あとがき」で、左翼の定義について、「世の中を変えようと志す人」、それぐらいの表現にしているという。そんな構えの本だからだ。
結論はあまりに当たり前のことなので、それを期待して読んではいけない。多くのページは左翼内の論争史に割かれており、それが面白い。というか、丁寧な解説を聴くかのよう。例えば「アナ・ボル抗争」、「福本・山川論争」、「共産党対社会党左派・総評」、「丸山眞男と竹内好」、などの各章がそれだ。
「丸山眞男と竹内好」には、大塚久雄の史学や内田義彦など、今や懐かしい左翼派学者も登場している(私も大塚史学には影響を受けた「労働論ノート」を同人誌に連載していた)、文化大革命やベトナム戦争の評価などから「『その国にはその国独自の』・・・」のつまずき」が出てくる。
この指摘は論の核のひとつ。特に以下の文章は「なるほど」の領域だ。
「その国の文化にはそれ独自の行き方がある」といった文化相対主義の物言いが、アジアの開発独裁者の自己弁護に利用されたり、日本における右翼ナショナリズムの正当化につながったりする危険が指摘されています。実際、竹内流「銑次の道」アイデンティティ追及路線が反欧米情念をまき散らしたことによって、1990年代末以降の若者世代の右翼ナショナリズム大隆盛への道を掃き清めたのは間違いないと思います」
このあとで、「文化の独自性」に絡んで、この本をぜひ読んで、というのが続く。私もこれは読みたいなと。「ヒューマン・ユニヴァー-サルズ」(ドナルド・E・ブラウン)。「文化人類学の世界でよく知られた、民族文化の独自性のいろいろな実例が、実は「神話」だったことが暴かれているという
本文にはこうした魅力的な指摘があちこちにあるが、結論は至ってシンプル。「大から小まで適切なシステムを構築することこそ」とか、「リスクと決定と責任がバランスがとれるようにするということ」など。いずれも「あとがき」から。この「システム」も「リスク。決定、責任」などが本文のキイワードで、詳しくは本文から(笑い)。
いずれにしろ、左翼論争の歴史を知るのは恰好の新書だ。ただし、中核、革マル、解放派、ブントなど八派全学連などに分かれた新左翼路線論争は含まれていない。いわゆる「新左翼」については、さらっと触れているだけ。踏み込んで書くとなると、新書では収まりきらないだろう。戦前・戦後の左翼論争を分かりやすく解説してくれている著者だけに、いずれそのわかりやすい論争史を発刊することを期待したい~。
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