「知恵の掟」は遠い祖先から・・・ 魅力的な『路地裏の資本主義』
移行期的混乱 経済成長神話の終わり』で、日本史上、初めての人口減少社会が始まったことを「キイワード」に現代の情況を分析した好著、それを送り出した著者・平川克美さんがその延長線上にまた面白い、いや、魅力的な本を発刊してくれた。『路地裏の資本主義』(角川ssc新書)。
題名からして、今の「金融資本主義」「グローバリズム」の対極にある発想や世の中の構え方であることがわかる。
「資本主義」とくれば、当然、マルクスの「資本論」があり、使用価値と交換価値を軸にした論も展開される。その流れの中に彼の父親介護体験が語り出される。父親は要介護5。なんと!一日のうちのほとんどはベッドの上。彼は実家に「単身赴任」し、食事、洗濯、排尿・排便の世話、入れ歯の洗浄、入浴介護などをこなしたという。そのときの彼を動かした不思議な声、というか、「人類学的」な問い、そこに至る細部の生活が説得力を持って、語りかけてくる。
平川さんによると、日中はヘルパーさんが。彼は父親との朝食をすませると、会社に向かい、会社帰りに駅前のスーパーでその日の夕食の食材を買うというに日々。卵焼き、ウインナ―揚げ、サラダと味噌汁、父親はそれを「旨い、旨い」と食べてくれた。2年間の介護、そして、父親が逝ったあと、料理をつくるのを止めてしまった。とにかく腹に何か入ればいいということに。「おいしいものをつくろう」という気持ちが「憑きもの」が落ちたように消えていった。
そこにこんな天からの「教訓」がやってきたという。つまり、「人は誰も自分で思っているほど、自分のために生きているのではない」。それとマルセル・モースの『贈与論』とが重なり、以下のようなこの本のへそのひとつが示される。 それを平川さんの用語でいうと、「知恵の掟」になる。
贈与の「パス」もそうだが、贈与論では、第一人者である内田樹さんと「ともだち」であるだけに、さすがに展開がうまい。だが、「掟」がひっかかる。流れからそうなるのだろうが、別の言い方ができないか。私なら・・・むむむ・・・。「パスのルール」、あるいは、「決まりの知恵」とでもしたいところだ。
以下に平川さんのひらめきを示す。
「呪術者のような言い方」としているが、いやいや、そんなことはない、と思う。 「弱きものの支援は、現代人が信じているような慈悲心ではないのです。かつて弱き乳幼児だった自分に与えられた贈与を、第三者に向けてパスする義務なのです。なぜなら、この義務を行使することは、わたしたちの社会そのものを存続させてゆくためのもっとも重要なマナーなのであり、それを統御しているのは遠い祖先から引き継がれた『知恵の掟』でるに違いないからです」
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