原発安全神話と皇軍不敗神話 岸田秀『絞り出し ものぐさ精神分析』
ネットを検索していたら、たまたまフロイト精神分析学者で、私の好きな筆者のひとり、岸田秀さん(1933年生まれ 元和光大教授)が「最新刊」を出していることを知って、すぐに注文へ。人類は本能が壊れた動物であり、すべての行動は自我を安定させるために、幻想・物語に従って行動しているー。御存じ「唯幻論」の大御所。著者44歳のとき、1977年(もう40年弱前なのですねー)に発刊した『ものぐさ精神分析』が爆発的な支持を受けた(岸田さんによると、その逆の批判・非難こうごうも)。
私もこの『ものぐさ精神分析』に夢中になり、自分の行動を<正当化>していた時代もあるので。2008年の『「哀しみ」という感情』以来、<その後がないね?>。と思っていたら、最近、『絞り出し 精神分析』を発刊していたのでした。「今度こそ本当に最後の雑文集」とこの本、「唯幻論始末記」に「唯幻論批判に対す反批判」や「唯幻論の背景」など、いかにも「最後の雑文集」にふさわしい論が立ち並んでいる。
その中に、この精神分析雑文集の一連のエッセイに「原発と皇軍」、あるいは「歴史のなかの原子力発電」も。いずれも10数ページのエッセイだが、さすが「唯幻論」の立場からの斬り方の視点は衰えていない。原発を廃止するかどうかの判断をめぐる岸田さんの方法は、私からすると、いただけない。しかし、これまでの原発安全神話について、以下のような展開をするところは、「なるほど~」と、思わされたのでありました。
鋭い視点なので、紹介へ。
(以下は『絞り出し ものぐさ精神分析』から)
この原発絶対安全神話は、かつての日本軍における皇軍不敗の神話、死を恐れぬ忠勇無双の日本兵は絶対に強いという神話と同類である。軍の上層部には、この神話を本気で信じている者がいたらしい。とにかく何らかの神秘的理由で、皇軍は不敗なのだと思っているから、敗北する可能性を検討して、それを防ぐ具体的対策を立てるなんて面倒で不必要なことはしないし、そもそも敗北する可能性を考えることが敗北を招くという言霊信仰のようなものもあるから、作戦計画は粗雑になり、必然的に敗北することになる・・・・不敗の皇軍が敗北する構造は、絶対安全の原発が爆発する構造とまったく同じである(「原発と皇軍」 岸田秀『同書』18頁 2014年5月30日第一刷発行 青土社)
(折々の<状況>その39)
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