私たちが生きているのはー大仏次郎論壇賞『経済の時代の終焉』
「私たちが生きているのは、経済が社会的な価値のかなりの部分を方向づける時代である。どのような青春時代を送り、その大学で学び、どの会社に入り、結婚するか、しないか、子どもを産むか、産まないか、親の面倒をみるか、みないかーー。人生のすべてを経済が決定づける一歩手前の場所だ。だが、そんな経済の時代を終焉させるということは、資本主義を社会主義やその他の何か決まった社会に変えることではない。経済を制御可能な正しい場所へ誘い、互いに助け合い、ささえあうという人間の本来の性質に輝きを取り戻させることで、より人間の顔をした経済とよりよい生の条件を作る、そのような時代に変わるということである。この理念が共有されたとき、いかなる手段を用い、どのような社会をめざすのかは、人間の決断に任せればよい」
今年の「大仏次郎論壇賞」。『経済の時代の終焉』(井手栄策 岩波書店)。清水の舞台から飛び降りるつもりで、本体2500円。いい本であるのはわかっているが、なるべく1000円台にして欲しい。ともあれ、本は基本的に高すぎるね。「図書館」利用者が増えるのは、わかる気がします。
第一章は「私たちはどのように新自由主義に飲み込まれたのか?」、第二章は「なぜ私たちの賃金は下落するのか?」、第三章は「グローバリゼーションは、なぜ世界経済を揺るがしたのか?」、第四章は「なぜ財政危機が問題なのか?」、そして終章である第五章は「経済の時代の終焉―再分配と互酬のあたらしい同盟―」。
経済と財政の歴史が次々と語られ、第三章までは、この方面の知識が豊かでないと、読み進めるのがかなり難しい(私のように)。でも、最終章は、すごくわかりやすい。読み進めるのがもったいないぐらい。最終章は、可否タイムを何度か、とりながら読み終えました。ピケテイとは一味違った魅力的な論考だ。基本的に大いに賛同する。
経済の歴史を論じているのだが、全体に社会学的な視点が随所に。「あとがき」を読めば、その人柄がわかろうというものだ。こういう結びになっている。
「命のつながりのなかで、お金では決して買うことのできないゆたかさを抱きしめながら、僕たちは今を生きるーーこんな照れ臭い言葉をみんなが自然と語り合える時代の訪れを願いながら」。
最終章ではさまざまな視点が散らばっている。その中のひとつ、ふたつを紹介しよう。(時間を作って、きちんとした書評にしたいが、本日は時間切れで紹介のみに)。
「―どうしても避けて通れない問題がある。それは、なぜ日本人は成長神話から脱却できないのか、という問題である。成長神話に絡めとられた私たちという社会的、政治的基盤があるからこそ、アベノミクスは支持される。そして、成長を実現させるためにあらゆる政策が動員され、その矛盾を覆い隠すように政治的右傾化が進んでいる」
「私たちは歴史の結果を知っている。だから、現在からみれば歴史は常に必然である。だが、その必然へと向かうプロセスで、人間は常に考え、悩み、行動してきた。私たちの未来に刻み込まれるのは、経済にひれ伏し、屈服する人間の姿だろうか、あるいは、つながりを求め、経済を飼いならそうと、これに立ち向かう姿だろうか。未来は今この瞬間の決断の積み重ねであり、結果である」
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