「大東亜共栄圏」がいかにまやかしだったか 改めて「アジア・太平洋戦争」を読む
「大東亜共栄圏」がいかにまやかしだったか 改めて「アジア・太平洋戦争」を読む
「日本がアジアの各国を解放する役割を担ったんだ」「白人支配から日本がアジアを解き放つ戦争だったんだ」、あるいは、「英米の植民地を解放し、民族の独立を進めたのだ」―――といった、太平洋戦争史観があったが(今も一部の人はそう思っているのだろう、そうでなければ、安倍自民の岩盤はないだろうから)。
ところが、日本近現代史が専門の吉田裕の『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)を一読するだけで、それがいかに歴史的に誤りであったかが、一目瞭然―。10年前、2007年8月に発刊されていたのですね。書棚を整理していて気になったので、ぱらぱらとめくっていたら、最初の章からすっかり引き込まれていた。
いろんなところで、これは初耳、あるいは「これは知らなかったー」という箇所があるが、とくにきちんと押さえたいと思ったのは「第三章 戦局の転換」にある「『大東亜共栄圏』の現実」だ。108頁から121頁のわずか10数頁だが、学ぶべき事実がぎっしり詰まっている。
例えば、もともと、戦争初期、同書によると、1942(昭和17)年1月21日、国内が戦勝に沸き返る中、衆院本会議で、東条首相は「大東亜共栄圏」の建設を内外にアピールした。
大東亜共栄圏建設の根本方針は、実に肇国(ちょうこく 建国)の大精神に淵源するものでありまして、大東亜の各国家及び各民族をして各々其の所を得しめ、帝国を核心とする道義に基づく共存共栄の秩序を確立せんとするにあるのであります。
いやはや、「帝国を核心とする」などと、言っていたのですね。同書では「日本を盟主としたピラミッド型の階層的な秩序が想定されていた」ことがわかる演説だ。
ところが、戦局が悪化、日本を盟主とする「大東亜共栄圏」の建設というスローガンは、東条演説から1年半強後の1943(昭和18)年8月には放棄されたという。日本国家が域内の諸国家・諸民族を指導するという意味合いが強すぎるという理由だったとする。
その秋、1943(昭和18)年11月に東條内閣がアジアの対日協力政権の代表者を東京に集めた「大東亜会議」があり、「大東亜共同宣言」が採択された。参加したのは、日本、タイ、フィリピン、ビルマ、中国(汪政権)、満州国、自由インド仮政府。「大東亜共同宣言」では、「大東亜を英米の桎梏より解放」することなどを戦争目的として提示し、自主独立の相互尊重、各々の伝統の尊重、互恵的経済発展、人種差別撤廃、文化交流の促進、資源の開放などを共同綱領として揚げていたという。
これでみると、当初の「大東亜共栄圏」建設の目的からかなりずれてきて、「自主独立の尊重」や「それぞれの伝統の尊重」などの綱領が目を引く。しかし、同書によると、この「大東亜共同宣言」によって、日本の権益至上主義的な対外政策の大幅な手直しが進んだわけではないと、指摘する。
これより少し先の1943年5月の御前会議で決定された「大東亜政略指導大綱」について、触れて。この大綱は、大東亜会議開催のための基本戦略を確定したもの。その中にフィリピン、ビルマの独立準備とともに「注目すべき一節」があるという。この一節、私もついぞ、知らなかったこと。じっくり向き合いたい一節だ。以下に示そう。
「マライ」「スマトラ」「ジャワ」「セレベス」は、帝国領土と決定し、重要国防資源の供給源として極力之が開発並びに民心把握に努む
同書では、日本にとって、重要な地域は独立を認めないという政策だとする。実際、インドネシアの民族主義者スカルノの例にみられるように、この地域を代表する民族主義者は大東亜会議に一人も招請されていない、という。(折々の状況 5月7日 BLOG「霧降文庫」)
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