いびつな「国策産業」の破綻 「ゴジラとアトムーその一対性―」(加藤典洋)から
「ゴジラとアトムーその一対性―」(加藤典洋)から
いちいち「ごもっとも」、そう言いたい論考だ。加藤典洋(私はかとうてんよう、と呼んでいたが、かとうのりひろなのですねー)の「政治・社会論集」として刊行されている『日の沈む国から』(岩波書店、2016年8月4日 第一刷)。2019年春の今もでもその通りだと思う指摘は、2年半前の論考だったーそれを知ったのは、この本の小論「ゴジラとアトムーその一対性」を読んでから。小論といっても199頁から246頁にかけての47頁もある論考だ。
その指摘、「原発が原爆のコインのふたつの裏側にすぎないこと」、「戦後の日本社会が抱える大きな問題が福島第一原発事故を契機に露頭した」、これらはもう世間に広く知られてきている。しかし、「平和利用は国策プロジェクトの別名にほかならない」といった言い回しは、承知はしていても、新鮮だ。また、原発は「必要があれば、日本が核武装できる技術的ポテンシャルを確保するため」といった指摘も「必要があれば」という一言を加えるだけで、さらに説得力を持つ指摘になっている。
なによりも、以下の指摘、見方は、その一言が福島第一原発事故の示す歴史的位置づけをわかりやすく示したもので、「確かにそうだね!」と言いたいところだ。
言いたいことはこうだ。福島第一原発事故は、戦後日本の政治が隠し持ってきた意図を体現させてきた「原子力産業」の危うさをあっと言う間に赤裸々にしたこと、核燃サイクル政策も含めて、その政治的、社会的、経済的な「総体」がぶっ飛んだ、あるいは、総体のもろさが露呈し、そこに世間の人たちが感づいた、気づいたこと(加藤典洋は、「破綻」という言葉を使っているがー)。
そして、「この社会のしくみでは、いかんぜよ」。そのように私や私たちの目線、姿勢、構えが変わってきた、さらに「これは何とかしないといけないな」、というように、さまざまな社会事象にかかわり、「転換」のための手段を何らかのかたちにしようとする場面に立ち会うようになってきた^そのように言えるのではないか。3・11福島第一原発事故から8年(もう8年!)が過ぎ、今、私の周りを見渡すと、それが現実の姿になってきているー。
(以下は、加藤典洋の「ゴジラとアトムーその一対性」から)
「平和利用」という原子力産業について、「市場原理を度外視した、いびつな『国策産業』とさせてきた原因であり、今回の事故は、その総体が、破綻を来した図にほかならかったのである」。
原子力の「安全神話」の崩壊は、原発が原爆と同じコインの二つの裏側にすぎないことを明らかにしたのだが、そのことを通じて、一つには原爆投下の問題が何一つ解決されていないこと、そこに被爆者の問題、原爆による死者の問題、さらには戦争の死者をめぐる問題までが含まれていることを教え、もう一つには、そのことを含んで、このことの背後に控える戦後の日本社会の抱える問題が、相当に大きなものであるということ、それがこの事故を契機に露頭したのであることを、私たちに示唆しているのである。
「平和利用」は、さまざまな矛盾をそこに抱え、隠しもつことでここまで日本社会が育ててきた国策プロジェクトの別名にほかならない。それは、表向きは資源にとぼしい日本のエネルギー政策の根幹である。そのシンボルとして国は当初から夢の技術としての核燃料サイクル政策を基本に据えてきたー中略―核燃料サイクルによるプルトニウムの確保、原子力技術、企業・産業のしくみを通じて、つねに必要があれば日本が核武装できる技術的「ポテンシャル」を確保するためのー国民に合意をはからないまま遂行してきたー「国策」の基幹部分であった。
平和利用は軍事利用の隠れ蓑となる。それが「平和利用」政策のそもそもの起点から内奥深く埋め込まれた秘密であり、日本における原子力産業を、ほかの一般の産業とは隔絶した、秘密主義で、市場経済の原理を度外視した、いびつな「国策産業」とさせてきた原因であり、今回の事故は、その総体が、破綻を来した図にほかならかったのである。
(折々の状況 2019年3月13日)
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