普通の暮らしと貧困は紙一重 緊急事態解除1カ月
新型コロナウイルス対策の国の緊急事態宣言が全国で解除されてから、25日で1カ月。経済活動は徐々に再開され、街の人出は増えているが、「暮らし」が失われたままの人もいる。(井上裕一、川嶋かえ)
「暮らしが突然白紙になってしまった。仕事をしていないと生きている意味もないと思い、気持ちもふさぎ込んでしまって……」
都内に住む小林茉里子さん(36)が正社員として働いてきたのは池袋駅近くの園芸店だった。植物が好きで客との触れ合いも楽しかった。海外からの観光客も多く訪れていたが、感染拡大とともに減り、3月にはぱたりといなくなった。
3月下旬。出社時に体温を測ると、平熱よりやや高かった。37・5度には達していなかったが、会社側から「帰宅して、自宅待機するように」と指示された。数日後、上司から「4月いっぱいで、退職になる」と電話で告げられた。
店のスタッフの数はすでに減っていた。自宅待機から戻れる見通しは立たず、諦めの気持ちで退職した。
月給は手取りで20万円弱だった。貯金はほとんどなかった。一人暮らしのアパートの家賃7万円に、光熱水費や携帯電話代……。家計はすぐに回らなくなった。4月に銀行のカードローンで20万円を借り、家賃や生活費に充てた。5月には国の無利子貸し付けで20万円を受け取ったが、新たな借金ができただけで、それも借金の返済ですぐになくなった。
6月はじめ、アパートを解約した。いまは友人宅に身を寄せ、ハローワークで仕事を探す。宣言解除から1カ月たつが、正社員の募集はほとんどない。
頑張って働いてきたのに、どうして突然、こうなったのか。普通の暮らしと貧困は紙一重だということを、身をもって知った。
国の特別定額給付金10万円もまだ受け取れていない。育てていた多肉植物をネットで売った。たいした金額にはならなかったが買ってくれた人とのやりとりは「久しぶりに仕事をしたようなつもりになれて、少し気持ちが救われた」。いまの貯金残高は2万円弱だ。
6月6日、全国の弁護士や労働組合などが電話相談会を開いたところ、全国で1217件の相談が寄せられた。「どう生きていけばいいのか」といった深刻な相談が目立つ。
小林さんは「新型コロナで、私みたいな状況の人はたくさんいるはず」と話しながら、自分に言い聞かせるように語った。「経済がよくなるまで、気持ちだけは負けず、生き延びるしかないですね」
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