日常に入り込んだ公権力 大塚英志
記事の一つひとつ軍国色は感じにくい。しかし、目的は「日常」レベルで、「戦時体制をつくる」こと。そのために昭和15(1940)年に発足した大政翼賛会が説いたのが「新生活体制」でした、
「新生活」の実践の担い手の中心は女性で、男性たちが突き進むナショナリズムとは異なり、非政治的に見えます。節約や工夫そのものは政治的に批判しくくい。しかし、それは生活という基盤から、社会統制に人々を誘導してしまう政治的役割を果たしました。
僕にはコロナ下の光景は、その「新生活体制」の繰り返しに見えました。ホームセンターの家庭菜園コーナーが人気になり、東京都が断捨離の動画を配信する。政治やメディアは日常のつくり替えによる行動変容を説く。その姿に違和感を覚えました。自ら生活領域の統制に参加し、従うことに慣れてしまった社会の向かう先が気になります。
実は翼賛体制に向かう前振りにあったのが、「自粛」でした。パーマネントや女性が接客するカフェがやり玉にあがり、映画館の行列は白い目で見られました。自粛警察の動きさえありました。「自粛」から「新生活」へ。手順まで同じです。
正直に言って僕は、コロカ禍で蔓延した「自粛」や「新しい生活様式」やそこにへばりつく「正しさ」がとても気持ち悪い。そう公言しています。けれど「気持ち悪い」と言いづらいような社会の空気がもっと「気持ち悪い」。
「日常に入り込んだ公権力」 大塚英志 朝日新聞6月20日朝刊 オピニオン・耕論 「新しい生活様式」の圧
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