「全共闘」系自治会が生まれる原動力に 同人誌「序説第30号」編集後記
「序説」の準同人だった川島洋雄さんが今春、急病死した。今から半世紀前、当時の足利工業大学でマスプロ教育が是正されないまま新しい学科を設けようという動きがあった。それに反対し、数十人の学生たちが校内をデモしながら(開学して数年目の同大だったが、学内の公然デモは初めてだったと思う)、「教授会」に乱入し、「大衆団交」に持ち込んだ際、若き青年教員として私たちを阻もうとしたひとりが川島さんだった。洋雄さんというと、そのときの姿が強く印象に残っている。この時のデモをスタートに「序説」の母体となる「全学活動者会議」が発足し、「全共闘」系自治会が生まれる原動力になった▼川島さんは大学教員の一方、足利の由緒あるお寺「法楽寺」の住職も務めてきた。最初はいわば「対立」する立場にあったが、大島渚監督の助監督の経歴がある実弟の川島和雄さんと私たちの縁などもあり、その後、貧乏学生だった私たちを法楽寺の落葉拾いやお墓掃除のアルバイトに雇ってくれるなどの世話もやいてくれた。高橋一男君の「あとがき」にもあるが、複数の同人は川島さんのところに下宿するなど、それこそ公私にわたっての付き合いがあった▼「序説」が発刊されると、いつも詩人など数人から御礼はがきが事務局に届いているが、そのひとりが川島さんだった。印象に残るのは6年前の「序説第24号」に対する御礼はがき。「7月も下旬に入ると、月遅れの盂蘭盆の準備に取り掛かってるのですが、ここ数年来気力が薄れ、テキパキ出来なくなってきました。歳に加えて、運動不足が原因で左膝を痛めてしまい、歩行が少々不自由になってきたためかも知れません。身体不自由の苦痛なことは、普段健康でいる人にはなかなか実感として分からないだということが、よく分かりました。どうぞ、お身体にご慈愛いただきたく、健康にご留意ください 7月31日 川島洋雄」▼亡くなった洋雄さんに思いをはせたのは、各同人の「序説第30号」の寄稿に洋雄さんのはがきにあったように身体の不調、気力の低下、健康問題、あるいは老い先の不透明さに対するコメントがいつも以上に多かったからだ。「ぼくにとって、圧倒的な過去に比べ未来はないに等しい。長く語れる過去はあるが、未来を語れば一言で終わる」、「最近になって、年を取るという事は、新たな出会いよりもずっと別れる事の方が多くなっており、寂しい限りである」、「もう若かりし頃のようには戻れない現実が体に滲み込んで、絶望の向こうまでも連れて行ってしまっていて、どうにもならないのです。歳老いていく事がこんなにも難しい事なのだなど想像さえしていなかったのです」▼「序説」は1974年創刊。来年の2024年は創刊から半世紀を迎える。当然、同人もいずれも70歳以上の高齢者に。そんな年齢だけに濃淡はあるが、いずれも各同人の実感なのだろう。それにしてもこの「超高齢化社会」にあって、いかに生きていくべきか、いや、いかに死んでいくべきかー。そんな問いを前にかく言う私にしても、その手の哲学本を手にしている。「不安や死への自覚を介して、未来へと先駆しながら、今において覚悟的に生きる本来的実存が示されるとともに、存在論の基礎となるべき時間論が解明される」。解説にこうある『存在と時間』(マルティン・ハイデッガー 「ちくま学芸文庫」版)▼「哲学本を手にしている」と書いたのは、若い頃から「存在と時間」に挑んできたが、ハイデッガーの難解な文章に立ち往生し、いつも途中で投げ出していた。なので、この冬は手始めに「世界一やさしく、かつコンパクトに解説した超入門書」というSF作家・筒井康隆の『誰にもわかるハイデガー』(ベストセラーの2022年河出文庫版)を読んだ(社会学者・大澤真幸の解説が魅力的で印象に残った)。そのうえで本編へ。「必要」に迫られてきた年齢になってきたので、今回は 読み通せるだろうと思っている(事務局・黒川純)
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