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2024年1月19日 (金)

原発事故の30㌔圏外避難は実質的に不可能     「原子力市民委員会」のオンラインシンポで

私もZOOMで参加した1月18日(木)の「原子力市民委員会」主催のオンラインシンポについて、ネットで早くもサイエンスライターの石田雅彦さんが書いていた記事がアップされていた。シンポは午後1時から4時まで3時間の長丁場。この要点をまとめるのは大変だが、さすがにうまくポイントについて記事にしている。私は特に能登半島の断層帯と原発事故避難、そして基準地震動について関心があったが、シンポはさらに幅広く論議されていた。その状況を伝えるには、この記事を読むと、だいたいの様子がわかるなと。それをアップすることで、私もシンポを振り返ろうとー。以下は確か、ヤフー経由でネットに掲載されたいた記事です。

地震が起きるたびに原発を心配しなければならない日本だが、今回の能登半島地震でも石川県志賀町にある志賀原発の被災状況が注視された。先日、原子力を考える市民の会が主催するオンラインシンポジウムが開かれ、原発の危険性と住民避難の困難さなどについて活発に意見が交わされた。

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原発は地震に耐えられるのか

 

 シンポジウムは原子力市民委員会が主催し、大島堅一(龍谷大学教授、原子力市民委員会座長)氏、松久保肇(原子力資料情報室事務局長、原子力市民委員会委員)氏、立石雅昭(新潟大学名誉教授、原子力市民委員会アドバイザー)氏、後藤政志(元東芝 原発設計技術者、原子力市民委員会委員)氏、上岡直見(環境経済研究所所長)氏、北野進(珠洲市在住、志賀原発廃炉に!訴訟原告団長)氏、添田孝史(科学ジャーナリスト)氏が参加した。

 

 大島氏の主旨説明の後、松久保氏が能登半島地震による志賀原発への被害現状を解説、立石氏が能登半島地震などの地震波や地殻変動と原発の耐震安全の欺まん性を、後藤氏が地震によって原発に何が起きるか予測不可能であり、原発はすぐに止めなければならないと訴えた。

 

 また、上岡氏は自然災害によって原発事故が起きた際の住民避難の困難さについて指摘し、北野氏は今回の能登半島地震の被災者の一人として志賀原発のは色を訴え、添田氏は石川県や福井県の地震評価の不備を周辺自治体と比較して懸念を示した。

 

 特に疑念や懸念が示されたのは、地震による地盤の隆起などの地形変化に原発が果たして耐えうるのかということ、そして大規模な地震が起きた際、原発事故への初期対応として屋内退避や遠方への避難が推奨されているが果たしてそれが可能なのかどうかだった。

 

 各氏が強調していたのは、立地が検討されていたものの地元などの反対で計画が凍結されている珠洲原発がもしあったらということ、停止中の志賀原発がもし稼働中だったらということだ。実際、今回の能登半島地震の震源は珠洲原発の建設予定に近く、もしあの場所に原発があったら重大事故が起きていたのは間違いない。

 

地震では能登半島の北岸が広く隆起した。「令和6年能登半島海岸地形(第三報)、2024年1月14日」、日本地理学会、令和6年能登半島地震変動地形調査グループ
地震では能登半島の北岸が広く隆起した。「令和6年能登半島海岸地形(第三報)、2024年1月14日」、日本地理学会、令和6年能登半島地震変動地形調査グループ

 

 立石氏は、日本地理学会の災害対応チームの調査報告を牽いて志賀原発の北にある富来川南岸断層の危険性を指摘し、さらに東京電力の柏崎刈羽原発周辺の地理学的な危険性にも懸念を示した。また、これまで個別に動くと考えられていた断層が連動して動く危険性などから、2006年に策定された原発の耐震設計審査指針の全面的な見直しを求めた。

 

地震により能登半島北西岸の鹿磯(かいそ)漁港の防波堤が3.8メートルから3.9メートル隆起した。産総研地質調査総合センター「第四報 2024年能登半島地震の緊急調査報告(海岸の隆起調査)」より
地震により能登半島北西岸の鹿磯(かいそ)漁港の防波堤が3.8メートルから3.9メートル隆起した。産総研地質調査総合センター「第四報 2024年能登半島地震の緊急調査報告(海岸の隆起調査)」より

 

想定外のことが起きる危険性

 

 日本の原発の立地は、冷却水の取り入れのため、その全てが海岸に隣接している。地震の揺れに加え、津波被害も想定しなければならない。松久保氏は、仮に数メートル単位で地盤が隆起した場合、原発の冷却水の確保はどうなるのか懸念を示し、1号機と2号機の使用済み燃料プールの温度が電源喪失によって摂氏100度まで到達する日数(1号機17日、2号機29日)を指摘した。

 

 また、原子力市民委員会事務局の細川弘明氏はオンラインシンポジウムのQ&Aに答える形で、今回の能登半島地震で取水トンネルなどの損傷の報告はないが、地盤隆起が原発の北7キロメートルで確認されているので取水系統の損傷の危険性があった、と述べている。

 

 志賀原発の1号機、2号機ともに停止中だが、東日本大震災に匹敵するような地震動が襲い、電源トラブルなどが頻出した。さらに、原発を維持管理する北陸電力のリリースも錯綜し、情報が小出しにされて電力会社への不信感がより増した。原発より北方にある放射能の空間線量を計測するモニタリングポストも地震によって故障し、しばらくデータが取得できない状況が続いた。

 

 後藤氏は、原発にとって何が脅威かといえば、想定していないことが起きることと述べ、今回のような地震などの外部事象に加え、原発内部の機能喪失などの内部事象、そしてヒューマンエラーなど全てを予測することは不可能だと強調した。そして、現在の原発は全て強固な地盤の上に建てられているという欺瞞を指摘し、地盤の隆起や地割れが起きることを想定した設計がなされていない「安全神話」が前提と批判した。

 

マグニチュード3以上の地震の記録(1997年10月から2011年2月まで)。「日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書」(2014年9月)より。
マグニチュード3以上の地震の記録(1997年10月から2011年2月まで)。「日本海における大規模地震に関する調査検討会報告書」(2014年9月)より。

 

住民の放射線防護や避難は不可能

 

 今回の能登半島地震では、海岸線が数メートル単位で隆起し、各所で断層ズレなどが起きた。地震の多い日本では、原発を安全に立地できる場所はほとんどないと言える。

 

 上岡氏は、内閣府の原子力防災に関するQ&Aから、大規模な震災が起きれば被災地はもちろん、避難受け入れ先も甚大な被害が及び、原発事故が起きた場合、住民の避難や屋内退避、被爆被害を軽減するためのヨウ素剤配布など不可能ではないかと指摘した。さらに、今回の地震ではNHKのアナウンサーが「テレビを見ていないで逃げて」と叫んだことを牽き、原発事故の状況や放射性物質の放出などの情報が住民に届かないのではないかと懸念を示し、原子力災害対策指針は全面崩壊した、述べた。

 

 珠洲市在住の北野氏は、被災地での実際の移動の困難さを指摘し、特に豪雪地帯での除雪は難しく、原発事故が起きた場合、30キロ圏外への避難は実質的に不可能と述べた。そして、志賀原発への地震の被害に懸念を示し、珠洲原発が立地されず良かった、志賀原発が停止中で良かったと強調した。

 

 添田氏は、石川県が計画した地震と津波の評価の矛盾を指摘し、今回の能登半島地震の震源や断層を早い段階からわかっていたのに何もしなかったと批判した。また、石川県は志賀原発の近くを通る邑知潟(おうちがた)断層も過小評価しているとし、これは同じように原発のある福井県と似たように行政による危険性の過小評価と指摘し、原発災害対応の眼目である住民避難について、原発を立地する行政はことさら目立たないようにしてきたのではないかと懸念を示した。

 

 これまで政府や原発行政、電力会社などは、地震に対する原発の安全性を強引に担保し、重大事故が起きた際の現実的な住民避難を軽視し、真剣に考えてこなかった。今回の能登半島地震は、原発の再稼働は不可能だし、現在稼働中の原発は今すぐに停止し、廃炉へ向けて動かなければならないことを教えてくれた。

サイエンスライター、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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