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2024年2月 8日 (木)

ぽーんと背中を押してもらったような気持ちになる     茨木のり子の詩「一人は賑やか」

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(グラビア 詩人・茨木のり子「倚りかからず」の生涯 「週刊ポスト2010年12月17日号」から転載)




 「家族」ではなく、「孤族」。朝日新聞が年末から連載してきた企画が、進むところまできた日本の今のある社会状況を示している。そのように感じた。久しぶりに読み応えがある連載記事で、さまざまなことをかんがえさせられた。

 「孤族」から「孤独」「孤独死」「孤独な環境」・・・。なんという冷ややかな、寂しそうな響きであることか。それに対し、「独り」ではなく、「ひとり」。その大和言葉?の、柔らかな、そして温かなイメージであることか

 この「ひとり」については、岩手日報の新春版にそれをめぐる哲学者・山折哲雄と歌人・道浦母都子の対談がある。ということを、私の先輩格である花巻市議がブログ「マコトノクサ通信」で紹介している(それへのコメントで詩「一人は賑やか」という詩があることを伝えたら、さっそく、「マコトノクサ通信」がアップしていた~。先を越されてしまったのです~)

 その「ひとり」、いや「一人」であることの深さとか、豊かさとかのプラスの側面をうたった詩に、茨木のり子の「一人は賑やか」がある。もちろん、だれにも頼らないで生きる自立は、その通りなら孤立だと指摘する構造主義哲学者?内田樹の「一人で生きられないのも芸のうち」というのもある。

 そして、内田樹の指摘は、その通りだとうなずけるのだが、茨木のり子の「一人は賑やか」は、また別のものだ。「一人でいるとき淋しいやつが、二人寄ったら なお淋しい。おおぜい寄ったなら・・・」(この後は核心なので、後記の詩で)。いわば思想に近い「一人」なのだ。それを「賑やか」というキイワードで記す。味わい深い詩だと思う(結びの「恋人よ・・・」も、さすが、茨木のり子だなぁ~)。

 ところで、「週刊ポスト」が昨年12月17号で茨木のり子をグラビアで記事にしていた。彼女の評伝『清冽』(後藤正治)が2010年11月に出版されていた。その後藤さんのコメントを中心に編まれた記事だった。

 そこで後藤さんはこんなコメントをしている。「茨木さんの詩を読んでいると、ぽーんと背中を押してもらったような気持になる。(略)。こうした凛とした思想は詩だけでなく、彼女の一貫した生き方でもあったと思います」。これはますます評伝『清冽』を読まないといけない~。

詩 一人は賑やか

          茨木のり子

一人でいるのは 賑やかだ

賑やかな賑やかな森だよ

夢がぱちぱち はぜてくる

よからぬ思いも 湧いてくる

エーデルワイスも 毒の茸も

                                                    

一人でいるのは 賑やかだ

賑やかな賑やかな海だよ

水平線もかたむいて

荒れに荒れっちまう夜もある

なぎの日生まれる馬鹿貝もある

                                                    

一人でいるのは賑やかだ

誓って負け惜しみなんかじゃない

                                                    

一人でいるとき淋しいやつが

二人寄ったら なお淋しい

おおぜい寄ったなら

だ だ だ だ だっと 堕落だな

                                                    

恋人よ

まだどこにいるのかもわからない 君

一人でいるとき 一番賑やかなヤツで

あってくれ

 

以上の記事は2011年1月7日の「霧降文庫」から。2011年3月11日の福島第一原発事故・東日本大震災が起こる2カ月前だった。当時はこんな長文の記事を書く心の余裕があったことがうかがえる。そのことを思い起こしながら、あえてこの記事のアップから13年後の2月8日(木)のBLOGに転載することにしましたー。

 

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