戦争と戦死者が忘れられないことのないように 「おなご」と戦争を書き続ける詩人 小原麗子さん
本日3月8日(金)の朝日新聞全国版の「ひと」欄に岩手県北上市の詩人 小原麗子さんが取り上げられていた。岩手県を代表する詩人のひとりで、懐かしく読んだ。というのも、かれこれ20年前に北海道釧路市から北上市へ転勤して仕事をしていた際、ごく自然に「ともだち」となり、小原さんの「麗(うら)ら舎」読書会にも顔を出していた。同会の大事な行事のひとつが、「千三忌」。太平洋戦争でひとり息子を亡くした母が苦労して苦労して道端に墓を建てた。小原さんは「南無阿弥陀仏」と書かれた墓の「墓守」として、この母の意思を引き継ぐ形で、毎年、「千三忌」を開いている。経緯は「ひと」を読んでいただくとして、私も「戦後連載」のひとつとして、「千三忌」を朝日新聞岩手版に書いている。その記事をそのまま岩手県を離れる際に「怒りの苦さまた青さ 詩・論「反戦詩」とその世界」(ずいそうしゃ新書、黒川純)に転載し、発刊している。2004年のことだから、もう20年前ー。「えー。もうそんな月日が過ぎたのかー」。そのことも思い出しながら、小原麗子さんを紹介した「ひと」を読んだのでしたー。
朝日新聞3月8日(金)全国版 岩手県北上市の詩人ー
(ひと)小原麗子さん 「おなご」と戦争を書き続ける
岩手県北上市にある自宅は「麗(うら)ら舎」と呼ばれる。「おなごが集い、本を読み語らい、文章を書き、自らの『生』を取り戻す場」を、この40年続けてきた。
麗ら舎の重要なテーマは、反戦だ。
終戦の約1カ月前、入院中だった姉が自ら命を絶った。夫が戦死したうわさを耳にした直後に。「銃後の守りで、誰よりも働かなくてはいけない嫁の身だった。追い詰められたのでしょう」
「家制度」は女性の忍従で成り立つ。だが自分は一人の人間として生きたい。農協で働き、「嫁」にいかない選択を貫いた。「ゆるして下さい がつちやあー」は縁談が舞い込み始めた当時に母に向けて詠んだ詩だ。「だのに わたしにひそむ血は “納得がいかぬ” “納得がいかぬ” と叫び たぎってくる」
「詩を作るより田を作れ」と言われても、小さな書斎で書き続けた。「農村の嫁の悲劇が生まれる原因は、多くの家族的な美しさの中にもある」。家族の調和が女性の犠牲に支えられる矛盾を指摘した。
麗ら舎の近所に、念仏が刻まれた墓がある。一人息子の高橋千三(せんぞう)に戦死されたセキという女性が、戦争と戦死者が忘れられることのないようにと願って置いたと知った。彼女の遺志を語り継ぐため、毎年「千三忌」を開く。
「麗ら舎の仲間は友達というより共感者。この人たちの支えがあるからこそやっていける」。今年も最新の会報誌を出す。
(文・写真 伊藤恵里奈)
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おばられいこ(88歳)
怒りの苦さまた青さ 詩・論「反戦詩」とその世界
黒川 純
賢治、光晴、隆明へ思いを馳せ、「千三忌」の里からイラク派兵を凝視する。全共闘世代が世に問う反戦詩・論集。著者は朝日新聞記者。
新書判/144頁/定価1100円(本体1000円+税)
ISBN 4-88748-107-1
著者プロフィール
黒川 純 くろかわじゅん
1950年、群馬県生まれ。
本名富岡洋一郎。
業界紙・地方紙(栃木新聞)を経て、現在朝日新聞記者。
詩誌「ベン・ベ・ロコ」「新・現代詩」会員。
目 次
詩 対 談
戦争と家族 なべくらますみ×黒川 純
「君死にたもうことなかれ」と全共闘
寅次郎と賢治の「永訣の朝」
「すべてを失ったもの」と茨木のり子
金子光晴と「絶望の精神史」
詩 その1
怒りの苦さまた青さ
音楽の時間
私たちの心を敗北させるな
私たちの意志は届いたか
リレー詩・川
天の川 黒川 純/地の川 斎藤彰吾
生き延びる日課
天気予報はもういらない
それも暴力だ
遺伝子のカナリアへ
月の砂漠へ
毘沙門天
詩 その2
独りの会議
銀ヤンマ
千 三 忌
千三忌
「千三忌」の背景について
58年目の夏――意志継ぎ「千三忌」営む
詩 論
詩人の力
「春と修羅」の心情
詩人の条件
詩集評
御庄博実・石川逸子詩集「ぼくは小さな灰になって……」
誰かのではない反戦詩へ
哀しみを抱き未来までへ
――黒川純の詩について 斎藤彰吾
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