「閣議だけで国柄を変えることなど許されない」に賛同 半田滋さんの「次期戦闘機輸出と憲法」の「ひもとく」
「閣議だけで武器輸出を決め、国柄を変えることなど許されない」ー。問題の在り処を厳しく提示するその視点をうかがうことができる優れた読書論。本日4月20日(土)の朝日新聞「読書欄・ひもとく」の「次期戦闘機輸出と憲法」ー。敏腕事件記者は防衛ジャーナリストになっても、鋭い感性がそのままにと、思うことしきりだ。かつて地方紙の県警本部担当記者同士として、切磋琢磨したことがある。その際の高い取材力は定評があったが、さらに東京新聞編集委員として、磨きをかけたことがこの一文を読んだだけでもわかる。
(以下は朝日新聞4月20日の「読書欄」から)
ひもとく)次期戦闘機輸出と憲法 禁輸の規範を支えたのは国民 半
政府は英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機について、第三国への輸出を解禁すると閣議決定した。これに加えて、今後輸出する都度、閣議決定するという「二重の閣議決定」のほか、「三つの限定」があり、歯止めになるというが、そうだろうか。
「三つの限定」とは、(1)輸出は次期戦闘機だけ(2)現に戦闘が行われている国は除外する(3)輸出対象を防衛装備品・技術移転協定などを締結した国に限る、の三つだ。現在の締結国は米英仏独伊など15カ国だが、2020年の9カ国から11、13、15カ国と増えている。今後も増える可能性が高い。
何より疑問視されるのは、(1)の「輸出は次期戦闘機だけ」という限定である。完成は2035年で10年以上も先だ。究極の殺傷兵器である戦闘機の輸出が解禁されたのだから、殺傷力の小さい武器類の輸出は認めるべきだとの声が出てきても不思議ではない。
■経済成長の難問
振り返れば、敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって日本は武装解除され、軍需工業も解体された。武器輸出など夢のまた夢となったが、どこで息を吹き返したのか。
その経緯を詳述した『日本の武器生産と武器輸出 1874~1962』(纐纈厚〈こうけつあつし〉著、緑風出版・3300円)は、朝鮮戦争特需が起こる一方、米ソ冷戦の本格化により、GHQの指令で警察予備隊が創設され、それまでの日本の「非軍事化方針」が逆コースへ進み始めたと解説する。
その後の経済成長によって国内工業の生産力が急速に伸び、難問が生じた。生産した武器をどうするか、その解決策が輸出だった。企業家たちは東南アジアに目を向け、武器を輸出した。
ブレーキがかかるのは、67年にペンシルロケットの輸出問題が国会で議論されたからだ。当時の佐藤栄作首相は対共産圏向け輸出を禁じた佐藤三原則を示し、76年には武器輸出を全面禁止した三木(武夫首相)三原則が表明された。これらは「武器輸出三原則」と呼ばれている。
武器禁輸は憲法に明記されておらず、法律として規定されてもいない。『亡国の武器輸出 防衛装備移転三原則は何をもたらすか』(池内了・青井未帆・杉原浩司編、合同出版・1815円)は、国産の武器で人を殺すことへの抵抗感が三原則支持の背景にあったと指摘し、三原則の規範を支えたのは国民の側だったとする。しかし、明文規定ではないことの宿命として時の政権の判断で左右されていく。
■閣議だけで変更
安倍晋三政権下の2014年、三原則は「防衛装備移転三原則」に置き換えられ、武器輸出が解禁された。国会の議論らしい議論はなく、閣議だけで政策が変更された。
安倍首相は安全保障環境の悪化を理由に、「密接な関係にある他国」が攻撃されて日本の存立が脅かされる事態を存立危機事態と名付け、その他国を守るために限定的な集団的自衛権が行使できると閣議決定した。その内容を法律にしたのが安保法制である。
「憲法解釈の番人」と言われる内閣法制局の元長官が安保法制を分析したのが『憲法9条と安保法制 政府の新たな憲法解釈の検証』(阪田雅裕著、有斐閣・2860円)だ。安保法制は矛盾だらけという。
「なぜ集団的自衛権を行使しなければ、脅威を防げないのか」が説明されておらず、「国民を守るためにしか行使しない限定的な集団的自衛権が、目的の達成に寄与するとは考えられない」とする。
閣議だけで武器輸出を決め、国柄を変えることなど許されない。殺傷力のある武器の輸出解禁は平和主義を掲げた憲法の解釈変更につながりかねず、本来なら関連法案を国会に提出し、憲法との整合性を説明すべきだ。いずれにしても今国会で武器輸出の是非が問われよう。
◇はんだ・しげる 防衛ジャーナリスト 55年生まれ。著書に『台湾侵攻に巻き込まれる日本』など。
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