そうだ。困った時の神頼み、いっちょ尾崎に会いにー 絶妙な切れ味の高橋純子編集委員「多事奏論」
切れ味に定評がある朝日新聞編集委員、高橋純子さん、今回は(4月6日、多事奏論)裏金問題をめぐる安倍閥幹部の姿について。見出し「『憲政の神様』の批判精神 閥族政治の奴隷になるのか」。書き出しに落語から入ることがけっこうあるが、今回は「そうだ。困った時の神頼み」から。相変わらず、出だしが意表を突く書き方だ。展開は以外と「真面目」。最期の締めを言いたいために描いたのだろうと思わせた。読んでみて、朝日新聞の貴重な人材だと、改めて思った次第ですー。
(以下は、その多事奏論の全文です)
醜態の見本市のごとき日本政治に鬱々(うつうつ)としていた先月下旬、米ワシントン・ポトマック河畔の桜が満開との報に触れ、ふと思い立った。桜の苗木が贈られたのは1912年、贈り主は当時の東京市長・尾崎行雄(1858~1954)。第1回選挙から衆院議員に連続当選25回を誇り、立憲政治の擁護に尽くした「憲政の神様」である。
*
都心から電車とバスに揺られて約2時間、神奈川県相模原市立「尾崎咢堂(がくどう)記念館」に入ると、受付の石谷さん(名札にそうある)が歓待してくれた。「あまり人が来ないんでね、寂しいんですよ」
手作り感あふれる展示をながめ、偉人と変人は紙一重だなと改めて思う。
雅号はもともと「学堂」だったが、29歳で「愕(がく)堂」に。「保安条例」にひっかけられ、東京退去を命じられたことに驚愕(きょうがく)したからだ。さらに50代半ば、老いて心力の衰えを悟り、「立心偏(りっしんべん)」を抜いて「咢堂」とした。しかしほんとは衰え知らずで78歳の時、国会で100分間にわたる軍部指弾演説をうつ。日中開戦5カ月前、懐には辞世の歌をしのばせていた。「翼賛選挙」に憤慨し、首相の東条英機に質問状を送ったこともある。あくなき批判精神。尾崎は言う。
「批判的精神は自己を尊重する心、我は奴れいにあらず、我こそ己(おの)れ自身の主人公なりとの自覚がなければ生(うま)れて来ない。(略)日本人の責任回避の習性は、上からの命令や指令をうのみにした結果、養成せられたのではあるまいか」
(「民主政治読本」1947年)
私が新聞記者だと知ると、石谷さんが「『尾崎行雄を全国に発信する会』の事務局長を呼びましょうか?」。ほどなくやってきた大橋孝夫さん(73)は開口一番、「いやー、ちょうど朝日新聞に投書しようかと思ってたんですよ。今の政治があまりにもひどいから」。
元中学校の社会科教師。「発信する会」は年に1回、「尾崎行雄杯」と題した演説大会を主催しているそうだ。
「尾崎は道理や理性、志を大事にしていた。今の政治家にはそれがない。緊張感すらない。まったく情けないですね」
*
いま尾崎を再読して気づくのは、政治を「私」する藩閥や軍閥に対する鋭い批判が、現下の日本政治への批判としても十分通用することだ。
【閥】出身・利害などによって結びついている人々の排他的な集まり。
(「明鏡国語辞典」)
「安倍一強」政治とは、安倍氏を中心とする閥族政治だった。「私」が「公」を侵食し、森友学園や加計学園問題は氷山の一角、年に一度、族たちの宴として「桜を見る会」があった。
裏金問題をめぐる安倍閥幹部の姿は、敗戦後の軍閥幹部の姿にも重なる。閥族政治最大の弊害は、構成員が自分の頭でものを考えるのをやめ、責任意識を失うことだ。自民党内の「処分」は出たが、この国の主人である主権者がきっちり罰を下さなければ、閥族政治の根が絶えることはなく、またいつの日かサクラサク、宴が繰り広げられることだろう。
「今や“人民による”政治を妨げるようなものは、アリ一疋(いっぴき)もはいり込むことができないように、新憲法で幾重にも保障せられている。今日、もし日本の民主化の実現を妨げるものありとすれば、それは唯(ただ)一つ、国民自身の無自覚怠まんがあるだけである」(「民主政治読本」)
(編集委員)
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