生きることはたえずわき道にそれていくことだ カフカ没後100年の「天声人語」にうなづく
「生きることは、たえずわき道にそれていくことだ」ー。絶望名人といわれるだけあって、いかにもカフカらしい言い方だ。私などはまさにその言葉どおりに、若い時代は「たえずわき道にそれて」いたので、ほんとにこの言葉がしっくり。自動車工場の工員を辞めて大学へ。真面目な学生が社会的な怒りから沖縄闘争へ。気が付けば、留置所と独房生活と裁判所へ。結局、大学紛争のあおりで優秀な成績で大学を除籍ー。刑法の世界の経験から新聞社の事件担当キャップ7年間ー。平行して新聞社の労働組合執行委員長を3年連続(4年目も選出されたが、辞退して組合顧問に就く)、新聞労連中央委員も。この間、ストライキを何度も指揮、右翼暴力に対抗するゲバルト部隊も用意した。管理職である報道部長の辞令が2度も出され、まだ若く、組合顧問なので辞退。しかし、「組合つぶしだ」と、組合が混乱。それならばと、全国紙へ。司法、原発、炭鉱、医療を専門に担当し、アイヌ民族や災害、基地、談合の取材も。横浜総局など3カ所の当番デスクも務めてきた。ともあれ、いやはや「たえずわき道にそれて」いたのでしたー。
ある朝、目覚めると、グレゴール・ザムザは「巨大な毒虫」になっていた。フランツ・カフカの『変身』である。どんな虫になったのか。以前の邦訳からは自分なりのイメージが持てたのだが、最近、それが揺らいでいる。いくつもの新訳を読んだからだ▼例えば、「途方もない虫」とか「馬鹿でかい虫」といった訳がある。「化け物じみた図体(ずうたい)の虫けら」とも。作家の多和田葉子氏の訳に至っては、原文をカタカナで記し、「生け贄(にえ)にできないほど汚(けが)れた動物或(ある)いは虫」とする▼何やら、虫ではない可能性もあるらしい。独語の辞書をひけば、ネズミのような小動物も含んだ意味の単語だという。うーむ。何だかよく分からない。いったいグレゴールは、何に変身したのだろう▼実はこれこそ、カフカの狙いなのかもしれない。多くの文学者が指摘することだが、『変身』の本の扉絵に「昆虫そのものを描くことはいけません」とする手紙を、作家はわざわざ出版社に送っている▼あえて彼は、分かりやすいイメージを読者に与えないようにしたのではないか。得体(えたい)の知れない生き物に自分が変質する。その自分とは何か。変わるとは何なのか。優れた小説は深遠な問いを読者に投げかけ、自由な想像を促す▼「生きることは、たえずわき道にそれていくことだ。本当はどこに向かうはずだったのか、振り返ってみることさえ許されない」。そんな言葉を残し、カフカは40歳で亡くなった。きょうでそれから、ちょうど100年になる。
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