生きているのは、おもしろかったです 川上弘美の連作短編小説集「どこから行っても遠い町」
魅力的な題名の連作短編小説集、「どこから行っても遠い町」(新潮文庫)。作者は川上弘美。内容紹介によると、「東京の小さな商店街とそこを行き交う人々の平穏な日々にある危うさと幸福」ー。と、あるが、11話から成る連作を読んでいくと、そんな簡単な紹介では済まない小説集だ。なによりも読み終えて思うのは、だいたい死者がそこここに影を落としていることだ。生と死を往還するようなあらすじになっている。面白いのは、第1話の「小屋のある屋上」と最終第11話の「ゆるく巻くかたつむりの殻」が実は表と裏のようにつながったつくりになっていることだ。解説でも最後を読み終えた際、再び第1話をひもといてしまうだろうと。そう書いているが、確かに私もそのように第1話を再び手にしていた。死者については、この本の結語の3行にくっきりと。すでに死んでいる彼女が語り手になった方法を取っている。う~ん、確かに読ませはするが、川上文学の特徴なのだろうが、いずれも各話とも宙ぶらりんの状態のままに。つまり、結末を示さない形式で終わらせている。そういう書き方というか、そういう形式を意識的に選んでいるのだろうが、私にはやや消化不良気味の思いも残されたー、そんな読後感もある。それを差し引いても、ともあれ「名作」の部類に入るかもしれない。
最後の3行は印象に残る。
「生きているのは、おもしろかったです。死んでからは、もう新しいおもしろいことは起こらないから、ちょっとつまらないけれど、捨てたもんではなかったです。あたしの人生も」
内容情報
[BOOKデータベースより]
男二人が奇妙な仲のよさで同居する魚屋の話、真夜中に差し向かいで紅茶をのむ「平凡」な主婦とその姑、両親の不仲をじっとみつめる小学生、裸足で男のもとへ駆けていった魚屋の死んだ女房…東京の小さな町の商店街と、そこをゆきかう人々の、その平穏な日々にあるあやうさと幸福。短篇の名手による待望の傑作連作小説集。
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