「あういう格好をしていては天皇家の将来も長くはない」 『司馬遼太郎 全講演 1 1964ー1974』
このエピソードひとつを知っただけでも、この本『司馬遼太郎 全講演 1 1964ー1974』(朝日文庫)を読んだ価値があるなと思ったほど、興味深い話でした。右から左までさまざまな天皇論があるが、その一言の重さにはなかなか及ばないかもー。
天皇の本質とは、繰り返して申し上げますけど、「だれよりも無力である」ということであります。つまりは皇帝はおろか、王ですらもなくて、天皇家はずっとその家系が続いてきたことになります。ところが明治維新を迎え、天皇の本質が変わっていきます。これはむしろ天皇にとっては非常に不幸だったのではないか。このことについてはひとつのエピソードがあります。
大正天皇のご生母で、柳原二位局(やなぎはらにいのつぼね)という方がいらっしゃいまして、この方は実家が公家でした。公家ですから、在来の日本の天皇の本質というものを、皮膚感覚で知っておられたのでしょう。自分の旦那さんである明治天皇が軍服を着て、サーベルを吊って、白い馬に乗っているのをごらんになり、おっしゃったそうですね。
「あういう格好をしていては天皇家の将来も長くはない」
明治国家という要請ということがありました。天皇が憲法上の権力を持ったということを、このエピソードは鋭く風刺しています。
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