「君は兵士」の反戦歌で検挙された「ナオコ」 朝日記事「ロシアで生き続ける反戦歌」
論説委員コラム「序破急」
「君がどんな戦争で戦おうとも、ごめん、私は反対側に立つ。今の君は、この地球上で最も悲しい存在だ」
ウクライナで戦うロシア軍兵士をモチーフにした反戦歌が、ロシアの若者の間で静かに広がっている。シンガー・ソングライター、モネトチカの「君は兵士」というバラードだ。傷ついた兵士への憐憫(れんびん)をにじませながら、戦争そのものには断固として反対する意志を表した。
軽やかな声とポップな曲調に鋭い社会批評や皮肉を忍ばせるのが、彼女の持ち味だ。若者を中心に人気があった。侵攻後まもない2022年5月、「自由に発言したい」とリトアニアに渡り、活動の場を国外に移した。ロシア当局からスパイに近い意味合いの「外国の代理人」に指定されている。
モネトチカの歌はロシアの表舞台から消えた。でも、若者の心から消えたわけではない。昨秋、サンクトペテルブルクの路上でナオコと名乗る18歳のミュージシャンがモネトチカの曲を演奏した。その姿は動画サイトで視聴できる。大勢の若者がナオコを囲み、「君は兵士」を一緒に口ずさんだ。戦争に疑問を抱く若者が少なくないことが伝わった。
治安当局は路上演奏を無許可の集会とみなし、歌を「軍の信用を失墜させた」としてナオコらを検挙して罰金を科した。歌が体制の脅威になり得ることをロシアの支配者は知っている。
ソ連崩壊前夜の1980年代後半、伝説のロックシンガー、ビクトル・ツォイの代表曲「変化を!」が閉塞(へいそく)感漂う社会に生きる無数の若者の心をつかんだ。「我々の心が変化を求めている」「我々の目が変化を求めている」「我々は変化を待っている」というサビの一節は、改革を求める民衆を鼓舞した。
旧ソ連圏の抗議運動で歌い継がれ、2020年のベラルーシでの反体制運動でも、この一節が合言葉になった。ロシア当局はモネトチカが第二のツォイになることを恐れている。
ウクライナ戦争が長引く中、プーチン政権は反戦感情が国内に広がることを恐れ、厳しい言論統制を敷いている。だが、若者を拘束し、路上を封じても、人々の記憶までは消し去れない。歌が心の奥で響き続ける限り、当局が民衆を完全に沈黙させることはできない。
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