なぜそこまで執拗に「弾圧」を継続させてきたのかー「関西生コン事件」の検察発言、違法性を認めず
全国版で大きく報道したのは良いことだが、警察・検察がなぜ、そこまで執拗にこの労組に「弾圧」を継続させてきたのか、その手口、背景、理由まで踏み込んだ記事にして欲しかったなと。ないものねだりかも知れないが、「なるほど」の一方でまだ釈然としない感覚が残された。懸命に記事にしているが、生煮え的な印象も受けてしまった。まとめは「産別労組の活動に対する無理解があるとみられる」ー。う~ん、だが、どうも微温的すぎる結語のような気がする。資料・史料も含め、かなり突っ込んだ取材もしているようなのがわかるので、過去の労組弾圧事件も引き合いに、もう少し角度を変えた、厳しいまとめにできなかったかとー。ともあれ「関西生コン事件」の概要をまとめてくれたのは、ありがたい。私は無期限ストライキなどの争議を繰り返した労組委員長兼新聞労連中央委員を3年間経験している。そのためこの「関西生コン」事件は他人事とは思えないので、なおさら、厳しい読み方になってしまうのかもー。(以下は12月1日の朝日新聞記事です)
産業別労組の団結権、問うた「侵害」 検察の「どんどん削る」発言、違法性認めず
2025年12月1日 5時00分

産業別労働組合のストライキなどが威力業務妨害や恐喝といった罪に問われた事件で、無罪判決が相次ぎました。組合側は、捜査をした国や府県に賠償を求めて提訴しましたが、東京地裁は請求を退けました。一連の裁判で問われたのは組合活動の「正当性」でした。(黒田早織、編集委員・沢路毅彦)
今年6月。東京地裁の法廷の大型スクリーンで、取り調べの録画映像が上映された。大津地検の検察官が、恐喝未遂の疑いで逮捕された男性にこう語っていた。
「(組合を)きちっと削ってくださいよって話もあるわけです」
「これからどんどん削っていきます」
取り調べを受けたのは、関西の生コン業界の労働者が個人で入る「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(関生支部)」の組合員だった。
関生支部は、生コン運転手など生コン関連業種で働く人が加盟する。雇用形態はさまざま。メンバーは2017年時点で、近畿2府4県に約1300人いた。
生コンとは、工場でセメントに水や砂利を混ぜ合わせ、固まっていない状態のもの。作るのは中小企業が多く、大手のセメントメーカーから仕入れ、ゼネコンなどに販売する。大企業のはざまにあり、過当競争に苦しんできた。工場はバブル経済後に減ったとはいえ、今も全国に約3000ある。
取引先の大企業との交渉力を高めるため、会社側は協同組合を結成。関生支部も協力し、安売りする業者に協同組合への加入を求め、建設現場で法令違反が起きないよう働きかける「コンプライアンス活動」もした。
その関生支部で18~19年、威力業務妨害や脅迫の容疑などで、のべ81人も組合員が逮捕された。
生コン出荷を阻むストライキや、コンプライアンス活動で業務を中断させた行為などが「犯罪」とみなされたが、後に「正当な組合活動だった」などとして、のべ15人に無罪判決が出た。この無罪の割合は、日本の刑事裁判では異例の高さだ。
捜査の中で検察官が言ったのが、「どんどん削る」などの発言だった。関生支部側は20年、こうした発言は「組合の『団結権』侵害だ」として、国(検察)や滋賀、和歌山、京都の3府県(警察)に賠償を求めて提訴。「組合活動への誤った理解のもと、違法な捜査をされた」と訴えた。
裁判は5年半にわたった。そして、今年10月の東京地裁(大寄麻代裁判長)の判決は、原告側の主張を全面的に退けた。
■「交渉要求やストで逮捕」懸念 識者
「戦後、積み上げられてきた組合活動の保障を意図的に無視するものだ」。労働法学者の有志は2019年の声明で、関生支部への捜査の危うさをこう指摘していた。
憲法は、個人では力の弱い労働者が使用者と交渉するために組合をつくる「団結権」を保障している。また、労働組合法は、労働者の権利を守る活動であれば暴力行為などがない限り、違法にならないと定める。
裁判では、こうした権利の重要性をどう考えるかが問われた。
判決は、捜査機関の言動も「団結権の侵害」になりうるとの前提は示し、「削る」という発言については「捜査機関が組合員数を減少させ、勢いをそごうとしていると受け止められてもやむを得ない」と指摘した。
だが、結論としては「正当な組合活動を超える部分は是正するとの趣旨だ」として違法性を認めず、別の検察官の「捕まったけど組合員を続けるのか」などの発言も、違法ではないとした。「社会通念上、相当な態様から逸脱していない」というのが理由だった。
しかし、「削る」などの発言は、黙秘する相手への説得や真相解明に資するものなのか。詳しい検討は、判決からは読み取れない。
事件の影響などで約1300人の組合員のうち800人近くが脱退したが、こうした弱体化にも触れなかった。
判決について、毛塚勝利・元中央大学教授は「組合活動の中心的な担い手が逮捕、勾留されたことで組合の団結権自体が侵害された側面を見ていないとすれば、妥当ではない」と指摘する。
組合活動の違法性が疑われる際には「まず組合自体の行為として正当かを判断し、正当と評価できないときに初めて組合員の行為を評価すべきだ」と話す。一連の捜査を是認すれば「交渉の要求やストをした組合員を常に逮捕し、活動の正当性は裁判で証明せよと対応することが可能になりかねない」と懸念した。
■組合員いない企業も当事者/背景に無理解か
労働運動はもともと、劣悪な労働環境や少ない報酬に対する労働者の抗議活動から始まっている。激しい実力行使を伴うことも珍しくなく、警察の取り締まりの対象となった。多くの主要国で19世紀半ばまで労働組合に団結することは禁止されていた。
その後、団結権やストライキ権が認められるようになったのは、経営者に比べて立場が弱い労働者がまとまって交渉することが、社会を安定させ、経済全体にとってプラスになるという共通理解ができあがってきたからだ。
日本では、1945年8月の太平洋戦争終結後、連合国の占領下で法整備が進んだ。憲法で労働三権が保障され、労働組合法で具体的に権利保障がはかられた。
労組は、会社に賃上げや労働条件の改善を求める。ときに激しい言葉になることもあり、ストライキになれば会社の業務に打撃を与える。団体交渉の要求や要求を実現するためのストライキといった団体行動は、外形上は、強要罪や脅迫罪、威力業務妨害罪などになりうるが、労組の活動として正当性があれば、刑事責任は免れる。
関生支部は日本では数少ない産業別労働組合だ。産別労組は、企業の枠を超えて使用者側の団体と交渉し、労働協約を結ぶ。このため、労組員がいない企業であっても、交渉の当事者になる可能性があるが、一連の事件では、組合員がいない企業や団体に対する行動が罪に問われているケースが目立つ。
和歌山の事件で逆転無罪判決を出した大阪高裁は「産業別労働組合である関生支部は、業界企業の経営者・使用者あるいはその団体と、労働関係上の当事者にあたる」と指摘した。
しかし、この事件を担当した検事は国賠訴訟の法廷で、「産業別労働組合は団結権が保障されないと考えていたのか」という質問に、「そうですね。正当行為の問題になるのは労使関係のある事案というのが過去の裁判例ではほとんどだった」と答えている。
日本の労組はほとんどが企業別に組織されているため、労組の交渉相手も組合員がいる会社だけだという意識が生まれやすい。関生支部の労組員の逮捕が相次いだ背景には、捜査側に産業別労組の活動に対する無理解があるとみられている。
ネット検索していたら、2019年に竹信三恵子さんがきちんとした経過と背景を書いていたので、それも追加してアップすることにします。
「戦後最大の労働事件ではないか」という声の紹介も含めてー。
「関西生コン事件」と労働基本権の危機
放置すれば労働権ばかりか社会運動そのものが成り立たなくなるような事態が、私たちの足元で進行している。近畿圏で生コンクリートを輸送する運転手らの労組員が、ストライキ、ビラまき、果ては正社員化や子どもを保育園に入れるための就労証明書を求めたことまでが「強要未遂」「恐喝」「威力業務妨害」などにあたるなどとして、2018年から2019年の現在にかけ大量逮捕・起訴され続けているからだ。一部は1年以上の勾留が続いており、運転手が加入する労組「全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部」は2019年7月上旬、憲法28条で保障された労働三権を侵害する「恣意的な拘禁」として、国連人権理事会恣意的拘禁作業部会に提訴している。
「正社員化」求めたら強要未遂?
生コン業界は1970年代、過当競争の中で販売価格の低下や生コンの品質劣化が起き、運転手ら働き手の報酬の引き下げによる生活難、建築物への悪影響などが問題になった。そこで、通産省(現経産省)の主導の下、各社が協同組合を結成し、価格維持を図ってきた。同労組は、このうち関西地区の協同組合に加入する企業で働く生コン運搬運転手たちを組織し、販売価格引き上げ、協同組合の民主化のほか、先に述べた「コンプライアンス活動」として、労働基準法などの順守をめぐる立ち入り調査と違法状態の改善などを求めてきた。
2017年12月、同労組は、こうした価格維持政策の中で膨らんだ利益を運賃にも還元するよう求め、会社を超えた地域ぐるみのストライキを行った。ところが、半年以上たった2018年になって、このストに絡めるなどして、滋賀県警、大阪府警、京都府警が、競うように、「恐喝」「恐喝未遂」「威力業務妨害」などの容疑で組合員たちを、断続的に大量逮捕し始めた。その中には、正社員化要求と、子どもを保育園に入れるための就労証明書の要求といった身近な要求までが「強要未遂」とされた事件もある。
問題にされたのは、「2017年10月から12月までの間に会社の事務所に、同労組員らが何回か「押し掛け」、「請負」として働いていた生コントラックの運転手を「正社員として同社に雇用させ、男性を雇用しているという就労証明書を作成・提出させようなどと考え」、組合員らを「たむろさせ同社従業員の動静を監視させ」(裁判所が出した勾留状から)たとする事件だ。
こうした事件から1年半もたった今年6月、これを「強要未遂」として、労組員5人が逮捕された。請負は自営業で、会社は団交に応じる義務はないのに「強要」した、という理屈だった。
だが、最高裁での2011年の判断や、これを受けた厚労省の報告書でも、個人事業主や業務委託などでも、勤務の実態が事業組織に組み入れられているなどの労働者と認められる基準を満たしている場合は、労組を作る権利、団体交渉する権利、ストをする権利の労働三権を行使できるとしている。
運転手は、会社の専属で働き、タイムカードで時間管理もされており、賞与や残業代も払われ、作業服も同社のものを着用し、「個人請負」の形を取っていても、運転手らが団体交渉を求めたことは、お門違いとは言えない。こうした労働ルールの基本を無視した、粗雑とも見える逮捕だった。
大幅に下がった「犯罪」のハードル
異様な逮捕・起訴は、これだけではない。ストの現場にいなかった労組員らがストを「計画した」として「威力業務妨害」として逮捕された。また、コンプライアンス活動によって建設会社に違反状態の是正を申し入れたことが「恐喝未遂」として逮捕された。建設会社の外で、事実を書いたビラをまいただけで「威力業務妨害」とされた例もあった。
逮捕者は現在延べ約80人となり、起訴も2019年9月現在で延べ60人以上となり、体調不良を抱えつつ1年以上勾留され続けている組合員もいる。被告代理人の永嶋靖久弁護士は、一連の事件について、「三井・三池闘争や、国労事件にも匹敵する、戦後最大の労働事件ではないか」と言う。逮捕者の規模だけでなく、「犯罪」のハードルが大幅に下げられ、放置すれば、労組ばかりか社会運動を恣意的につぶせる前代未聞の仕組みが日本社会に定着させられかねない事件だからだ。
一連の事件で頻出する「強要罪」は刑法223条で、「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する」などとされている。また、「恐喝罪」は刑法249条で「人を恐喝して財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する(財物恐喝罪)」などとされている。
これらの適用については、従来、社会的通念や客観的な事実から相当と思われるものという歯止めがあった。ところが、今回は、「脅されて怖かった」と言えば成り立つレベルまでハードルを下げて、適用されたという。加えて、逮捕して勾留期限が切れると、別の容疑で再逮捕することで長期に勾留する手法が多用され、一人につき6~7回逮捕されるという異例の事態が生まれた。
特に注目されるのは、まず、「協同組合から生コンを購入してほしい」と建設会社に働きかけた協組の経営者らを「恐喝未遂」として逮捕し、「労組に脅された」という被害届を出した経営者は不起訴にして労組員逮捕の端緒とする手法を取ったことだ。2018年6月から日本でも導入された「司法取引制度」の活用だ。
こうして出来上がったのは、自発的なものとは言えない「被害届」によって、「被害者」が「脅されて怖かった」とさえ言えば成り立つほど「犯罪」のハードルを下げて逮捕し、これを繰り返して長期に労組の活動の自由を奪う「労組つぶし」の手法だ。
また、「ストを計画」しただけで威力業務妨害(大阪府警)とされた事件については、「話しあっただけで罪になる」と言われた「共謀罪」(2017年7月施行)のリハーサルとの見方も出ている。
メディアの監視力の弱さで悪化
これらが放置されれば、影響は、他の社会運動はもちろん、メディアの取材活動にも及びかねない。日本郵政がNHKの「かんぽ報道」での取材について「圧力」と抗議したと報じられているが、経営陣が「怖かった」と被害届を出せば報道関係者を逮捕・起訴できることにもつながりかねない手法だからだ。
にもかかわらず論議は極めて低調だ。理由のひとつはSNSやマスメディアにある。
「関西生コン事件」でネットを検索すると、人権問題にかかわってきた野党議員や反差別の社会運動団体などと関係づける形での労組攻撃が上位に並ぶ。「なんだか怖いこと」という印象だけが残り、それが人々を遠ざける。外国籍住民に対するヘイトスピーチに似た手法だ。
これによってマスメディアでも、「なんだか怖いこと」の印象が広がり、報道は少ない。中には、労組員が逮捕された際、その横で待ち構え、フラッシュをたいたメディアもあったという。労働権についての教育がほとんどされていない中、マスメディアが解説機能を果たせていない。 そうした監視力の弱さによって、粗雑な逮捕や起訴に歯止めがかからず、ここまで拡大した、といっても過言ではない。
そんな中でもいま、「関西生コンを支援する会」が東京や東海地区で結成され、ようやく支援の輪が広がり始めている。多様な場での論議と労組の支援を深め、こうした事態に早急に歯止めをかけていく必要がある。
IMADR通信200号 2019/10/30発行











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