断層破壊についてほぼ全体像を知る 「能登半島地震一カ月 上」(2月2日 朝日新聞)
「能登半島地震1ヶ月 上」ー。断層破壊についてのまとまった2月2日付け(金)の朝日新聞記事だ。各紙ともこれまで断片的な記事ばかりで、なんだか、もどかしかった。この記事で、ようやく全体像がほぼ見えてきた。それにしても断層問題の研究の最前線でいかなる研究がなされているかが、うかがえるいい案内の文章だ。特に能登半島がいかにできてきたか、歴史的な成り立ちが改めて「なるほど」ーと合点が。これらで驚いた4メートルの隆起も不思議ではなかったことを知らされた。今回は(上)。さらに(下)もあるようだから、その記事にも期待したい。
(以下は2月2日の朝日新聞記事から)
(能登半島地震1カ月:上)二つの大きな断層破壊、地下で何が
最大震度7を観測した能登半島地震から1カ月。研究者の調査で、3年前から続いた群発地震が大地震を起こしやすくした可能性や、最大4メートルにのぼる隆起の詳しい状況がわかってきた。
「兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災、1995年)や熊本地震(2016年)でほぼ1回だった強い地震波が、能登半島地震では3~4回続いた」
1月27日、金沢市で開かれた土木学会海岸工学委員会の報告会。金沢大の平松良浩教授(地震学)は、研究者から寄せられた最新の報告を次々に紹介した。
能登半島地震は1月1日午後4時10分に発生。日本海側で起きる地震では最大級ともされるマグニチュード(M)7・6だった。
京都大の浅野公之准教授(強震動地震学)らの解析では、能登半島先端の石川県珠洲市を震源に、南西の輪島市側と北東の新潟・佐渡島側への2方向に広がる二つの大きな断層破壊が起きたとみられることがわかった。
■周期1秒前後で長い時間揺れた
地下の断層は能登半島の北岸に沿うように100キロ超にわたって破壊。沖合にも延び、津波の発生につながったとみられる。
京大のグループは地震波の波形や周期も分析。阪神・淡路大震災や熊本地震でも観測された、木造家屋に被害が出やすい周期1秒前後の揺れに「長く」襲われたことがわかったという。
平松さんは「今回の震源はどこに位置するか。まさに(群発地震の続いた)2年以上にわたり、力を受けていた場所だった」と明らかにした。20年12月から続く群発地震を調査してきた解析から、群発地震を引き起こしてきた能登半島地下の「流体」と今回の地震の関連を解説した。
群発地震は珠洲市周辺の約30キロ四方を震源に発生。日本海の海底側から、珠洲市の地下に延びる「断層帯」周辺で地震が繰り返されており、震度1以上の揺れが506回(23年末まで)にのぼっていた。
この原因とみられるのが、さらに地下深くから上昇してきた水などの流体だ。断層帯の深い場所と浅い場所それぞれで、群発地震に関与していた可能性が高いという。
深さ15キロを超える深い場所では、岩盤を押し、「スロースリップ」と呼ばれる断層のずれなどを引き起こした。これによって周囲に、地震が起きやすくなるひずみがたまっていた。
さらに、断層帯の浅い所にも流体が上昇。潤滑油のように作用することなどで、断層がずれ動きやすくなっていたとみられる。
平松さんによると、詳しい震源解析で、今回の地震は深さ15キロ付近で発生。流体によって地震が起きやすくなっていた二つの領域の中央付近が、震源だったとわかったという。「流体が能登半島地震のトリガーとして働いた可能性がある」
さらに群発地震は、輪島市側や佐渡側の断層に対しても、地震を起こしやすくするひずみを生んでいた。
その結果、今回の地震は群発地震の範囲を一気に越え、桁違いに広い領域で地下の断層が破壊された。
この断層破壊が広がった40秒ほどのうちに起きたとみられるのが、輪島市の海岸で最大4メートルにおよんだ地形の隆起だ。
釣りをしていたら揺れがきて、それと同時に地面が持ち上がった――。
隆起の調査を進める東京大の石山達也准教授(変動地形学)は、輪島市内の漁港で男性から、地震の瞬間のそんな体験を聞き取ったという。
「海岸が赤い」
同じチームで1月3日に隆起の大きい同市・鹿磯漁港に入った岡山大の松多信尚教授(地形学)は、海中にあったはずの赤い海藻が陸に広がっている様子に驚いたという。4メートルの隆起の観測は、明治以降の国内地震では最大規模という。
今回の地震と隆起は、日本海に突き出た能登半島が形成されてきた数百万年間の歴史に連なる。
■地形に残された数百万年の歴史
能登半島エリアはおよそ100万年以上前は島が点在する海で、隆起を繰り返し陸が広がってきたと考えられている。
証拠の一つが階段状の段丘だ。海底だった平らな土地が隆起した痕跡で、能登半島では標高100メートル以上に、12万年くらい前には海底だった段丘があることが知られてきた。
「今回、まさに新しい段丘ができた」
こう話すのは、近年、能登半島北岸で隆起の証拠を積み上げてきた産業技術総合研究所の宍倉正展グループ長(古地震学)。
宍倉さんのグループは、珠洲市から輪島市にかけて、6千年前以降にも数メートルの高さの3段の段丘ができたことを、化石などを使って解き明かしてきた。
隆起が繰り返し起きるのは、能登半島北岸に沿って海底活断層が延びているからだと考えられている。
今回、この活断層を両側から押すような力が加わり、陸地側の地盤が、海側の地盤に乗り上げて隆起したとみられる。
能登半島では07年に数十センチの隆起を伴うM6・9の地震が発生した。こうした地震を繰り返し、他の要因も加われば、数メートルおきの高さの地形ができるのか。それだけでなく能登半島北岸では、一気に地盤が数メートル隆起するような大地震が起きうるのではないか――。
宍倉さんが、そうした可能性を指摘する論文を書こうとしていた矢先、今回の地震が発生したという。
名古屋大の鷺谷威教授(地殻変動学)も「残された段丘を考えれば、今回のような大地震が数千年に1回繰り返してきたと考えるとつじつまがあう」と指摘する。(瀬川茂子、竹野内崇宏)
◇2回連載します。(下)では今回の地震を引き起こした海底活断層などを国や専門家がどうみていたのかを探ります。
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