違憲と判断される可能性が非常に高い 「国旗損壊罪」で志田陽子・武蔵野美術大教授
「国旗損壊罪」について
受けて、志田陽子教授の著書『「表現の自由」の明日へ』を日光図書館から借りて読んだ。ただ著書は表現をめぐる全般的な内容で教科書風だ。やはり、この朝日のインタビューの内容が光っている。なお、内閣委員会での参考人の意見聴取はきょう26日(金)の朝日新聞4面に『国旗損壊罪「憲法抵触』指摘も』に。内閣委員会で志田陽子さんは「現在の案では将来憲法訴訟になったときには、違憲と判断される可能性が非常に高い」と指摘したとある。「指摘した」というより、いわば「警告した」あるいは「注意した」というべきかー
(インタビュー)自国国旗の損壊罪、必要? 憲法学者・志田陽子さん

自国の国旗を傷つけることを法律で禁止する――そんな国旗損壊罪の新設を目指して、自民党や日本維新の会などが動き出した。首相の高市早苗氏が長年取り組んできたテーマでもある。憲法学者の志田陽子さんは、そもそも新たな規制が必要かどうかをまず吟味してみましょうと言う。どういうことか。
――自民党と日本維新の会は「日本国国章損壊罪」の制定を目指すことを連立合意書に記しました。参政党も10月末、同趣旨の刑法改正案を提出しています。このうち自民党は、2012年にも国旗損壊罪を創設する刑法改正案を提出して廃案になっていますし、21年にも再提出をする動きを見せていました。
「自国の国旗を損壊する行為を処罰する――そんな法律を作る必要性が今どれだけあるのかを、きちんと吟味すべきだと思います。国家の統合や治安、国家への愛を、法律で強制しなければ確保できない状況に、日本はあるのでしょうか」
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――外国の国旗を損壊する行為を罰する規定は刑法92条にあるのに、自国の国旗を損壊する行為を罰する規定がないのは矛盾だ、という主張があります。
「矛盾ではないでしょう。多くの人が指摘している通り、刑法92条は他国との外交関係が悪化することを防ぐためのもの、つまり外交上の国家利益を守るためのものだからです。自国の国旗を損壊する行為に触れていないのは当然なのです」
――とはいえ、自国の国旗を損壊する行為は極端な問題行為だと思う人もいそうです。
「国旗が焼かれたり汚されたりするのを見て心が痛んだり不快に思ったりする気持ちは、私にも理解できます。他方で、自国の政治のあり方が間違っているという思いからぎりぎりの抗議の表現として国旗を焼いたりすることは歴史上、各地で行われてきたことでもあります」
「たとえば近年では香港で、民主的な自己統治を求めて中国政府による支配に抗議した人々が、国旗を侮辱したという理由によって逮捕されています」
――今もし誰かを公然と侮辱したら、刑法で侮辱罪に問われうる現実がありますよね。それならば国旗や国家への侮辱も禁じられてしかるべきでは、との考えについてはどうでしょう。
「生身の人間への侮辱とは異なり、国家に対する侮辱には『法的な被害者』が存在しません。また国旗が損壊されるのを見て心が痛んだりする国民がいたとしても、その人の権利が侵害されたとまでは言えません」
――国旗損壊を見て不快な思いをしたり、国家の統合や秩序が揺らぐのではないかと不安を感じたりする人が出てくる可能性は、どう考えるべきですか。
「その可能性はあると思います。ただ、不快な思いを与える表現だったことを理由に法で処罰することは、表現の自由に照らして問題があります。あくまでヘイトスピーチのような人権侵害の事例に限るべきです」
「統合や秩序が揺らぐという不安については、憲法で保障された国民の自由に制約を加えなければならないほどの無視できない『実害』が本当にあるのかを考えてみるべきでしょう。処罰の必要性を根拠づける『立法事実』があるのか、処罰で強制してまで保護すべき法益があるのかをチェックする作業です」
――志田さん自身は「ある」と思いますか。
「誰かが日の丸を破ったり焼いたりすることによって日本社会の統合や秩序が危険にさらされている状況があるとも、そうなることが確実視される状況があるとも、私には思えません」
「過去に注目された事例としては、沖縄国体の会場に掲揚された日の丸が焼かれた事件がありますが、今から38年も前のことです。また、それを実行した男性は罪に問われなかったわけではなく、器物損壊などの罪で有罪判決を受けてもいます」
――国旗損壊という行為が問題になりうるケースとは、具体的にどのようなものでしょう。
「大きく二つに分けて考えたらいいと思います。第一のケースは、政府や自治体などが所有する日の丸、つまり公の財産である国旗が損壊される例です」
「もし国家施設や公的行事などで掲げられている日の丸を誰かが破いたりしたのなら、『他人の持ち物』を壊したことになりますから、今ある器物損壊罪などで処罰できます。そのうえに新たな規制を設けたら『屋上屋』になってしまいますので、国旗損壊罪を新設する必要はないことになります」
――では、もう一つのケースとは何でしょう。
「一般市民が、自分で買ったり、紙や布で作ったりした日の丸という表象を、自らの表現行為に利用するときです」
「自分の持ち物ですから、処分権は本来その人にあるはずです。にもかかわらず、個人が自分の所有する日の丸を損壊する行為までを処罰対象とすれば、それは表現そのものを規制することになります。使い方を規制するということは、『使い方に込められたメッセージ』を統制することになるからです」
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――何を守ろうとする法律だということになるのでしょう。
「国旗というものが持つ『象徴的な価値』が公然と毀損(きそん)されること、を防ごうとするものなのでしょう。実際、高市早苗首相は過去(21年1月)に自身のホームページで、国旗損壊罪の創設を通じて侵害から守るべきものとして次の二つを挙げています。『国旗が象徴する国家の存立基盤・国家作用』と『国旗に対して多くの国民が抱く尊重の念』です。いずれも、モノとしての日の丸ではなく、国旗の持つ象徴的な価値に焦点を当てていると言えます」
――国旗損壊罪を制定しようとする人々からは、あくまで侮辱目的での損壊を規制するだけで、政府への抗議の表現まで取り締まるものではない、との反論も予想されます。
「警察での取り調べや裁判など実際の運用場面を考えると、『あのような表現が侮辱的だということは当然認識できたはずだから、侮辱の目的があったと推定される』といった論法で有罪視されてしまう事態が容易に予想されます。なので、侮辱目的に限るとの規定が実際に歯止めになるかどうかは疑問です」
「また、逮捕された人が『目的は侮辱ではなかった』と証明するためには、自分の思想信条を捜査機関に明かさなければいけなくなります。その意味で国旗損壊罪は、捜査機関が個人の思想信条に踏み込むきっかけを作り出す法律でもある。法や公務員が個人の内面に踏み込むことを禁じ、思想・良心の自由を保障した憲法19条に抵触する可能性があると私は思います」
――国旗損壊罪は米国にもあると言われていますね。
「ええ。ただ、1989年に重要な司法判断が出されていることも確認しておくべきです。自国政府への抗議デモで星条旗を焼いた男性が、国旗を侮辱した罪に問われた事件で、連邦最高裁は、国旗を損壊する表現を禁止・処罰するテキサス州法は違憲だとの判断を示しました。政府への抗議を表すための国旗損壊を、憲法が保障する『政治的な表現』と認めた形です」
「この判決は保守派の反発を招き、連邦議会は星条旗への保護を強めようとして連邦法を改正しましたが、連邦最高裁は90年、この改正法についても違憲だとする判決を下しています」
――一方でトランプ米大統領は、それらの司法判断に対する不満を表明してきました。
「ええ。トランプ大統領は今年、星条旗を焼くなどの行為をした人を起訴するよう命じる大統領令に署名しています」
――国旗損壊罪を制定しようとしている人々は、フランスやドイツ、中国などにも同様の法律があると訴えています。
「それぞれの国がどのような実害を踏まえて、いつ導入し、表現の自由との衝突をどう調整しているのか、英国やカナダにはなぜないのか……。調べた方がいいことが山積みです」
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――国旗損壊罪の制定に反対すると、一部の人々から「日本を愛していないのか」「それでも日本人か」という非難が寄せられてしまう状況もあります。
「愛と追従は違います。自国や郷土への愛があるからこそ、そこで起きている問題や過ちに対して内側から厳しく批判・抗議する人々は、歴史に繰り返し登場してきました。国や郷土をあっさり見捨てて離脱するタイプではないからこそ、表現もときに辛辣(しんらつ)になるのです」
「愛や尊敬は結果としてついてくるものです。それを法と警察力で強制すれば、萎縮による追従は得られても、人心の内実は離れ、国への尊敬や帰属感はかえってもろいものになります。尊敬される国政を実現することに専念すべきでしょう」
(聞き手 編集委員・塩倉裕)


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